美空ひばりから「お兄ちゃん、うちに遊びに来て」 昭和のスタア「宝田明さん」が生前に語った華麗なる交遊録…江利チエミが恋に落ちた高倉健の“仮病”
美空ひばりの父に感じた悲哀
それで、「焼き鳥がないじゃない。宝田さん、焼き鳥が好きなんだから用意してよ」と、お父さんに言うわけですよ。「もうたくさん料理があるからけっこうです」と言っても、お母さんは、「用意してくれなきゃ」とお父さんに言う、ひばりは黙っているだけです。 それでお父さんが出て行って、小一時間ほどして、大皿に20人前くらいの焼き鳥を持って帰ってきたのです。そのときに、僕は、お父上は可哀想な存在の方だな、とふと思った。ひばりの家庭がどんな家庭なのか垣間見た気がしたのです。お母さんはステージママとして子供に夢を託して育てたけれども、お父さんの存在は薄かった。 その夜は、しこたま飲んで、お母さんもブランデーでも何でもカポカポ飲んで。そのうち、ひばりから「ちよっとお兄ちゃん、踊ってちょうだいよ」と。それでひばりは背が小さいけど2人でチークダンスを踊った。お母さんはいらっしゃったけど、お父さんは早くに「宝田さん、お先に」と言って下がっていった。 その日は、当然のことながら泊めてもらいました。翌朝、ふと目が覚めたら、ひばりが「お兄ちゃん」と起こしてくれた。すると潮騒というのか、波の音が聞こえてきた。パッと窓を開けたら磯の香りがするような素敵な家でした。それでお風呂に入って酒を抜いて、撮影所に行ったのですが、焼き鳥を買いに行ったお父上には大変な思いをさせたなあ、と気になって仕方がなかったのです。
江利チエミの兄に煙たがられていた高倉健
《人気絶頂だった江利チエミは、昭和34(1959)年 に俳優の高倉健と結婚。宝田は、当時のエピソードを披露する》 チエミは、映画に出演する傍ら、全国でショーをやる。名古屋の名鉄ホールでチエミが公演した際に、僕とひばりといづみがゲストとして応援に行ったことがあった。公演終了後、焼肉屋に行ったんですよ、中村メイコも仲間で来ていて(宝田とは昭和31年「奥様は大学生」などで共演)、5人で飲んだ。メイコも、あんな小さな身体でフカのように飲む。ブランデーもウイスキーも飛ぶように消えていく。 そこへチエミが、「今日ね、私が出た東映の映画で共演した高倉さんが来るのよ」と言う。実際に、まだ東映の新人だった高倉健さんが来ましてね。高倉さんは、全然お酒を飲まないし、おとなしく僕の隣に座っていた。僕がカットグラスにウイスキーをストレートで2センチくらい注いで「飲みなさいよ」と勧めたら、ちょっと口にしただけですぐぶっ倒れるくらいに酔ってしまった。 そうこうするうち、チエミから「実は、高倉さんと結婚することになった」と聞かされました。チエミは当時、すでに両親を亡くしていて、お兄さんが付き人兼マネージャーをして2人で一緒に住んでいました。 後で本人から聞くと、毎日のように高倉さんがチエミの家に遊びに来ていた。だけど、酒は飲まないし、趣味の話もしない。高倉さんが遊びに来ると、お兄さんが「早く帰れ」とばかりに箒を逆さに立て掛けていたそうです。