いったいなぜ…!習近平が「人民元安」に誘導か…日本経済にも影響が及ぶ、中国の「隠された思惑」
「市場の不安」を打ち消せるのか…?
別の考えかたは、今回の調整はむしろ大幅切り下げ予測を打ち消すためのアクションだったというものだ。 ロイターが華創証券のマクロ経済研究責任者である鍾正生氏のコメントを引用してこう報じていた。「(人民銀行は)人民元を長期にわたって少しずつ切り下げていくよりも、比較的急速に一段階下げる方が良いと考えた。後者よりも前者の方が一方的な切り下げ期待を生み出さないし、資本国外流出のパニックを激化させることもない」。 国際社会は中国が人民元下落に抵抗を続けながらこのままじりじり5%くらい下がると予測していたが、あえて市場の予測を裏切って中間値を一段大きく下げることで、それ以上の下げ期待が緩和し、これで大幅切り下げはないだろう、という空気感がつくれる、と踏んだということだ。 今回、中国の中央銀行の動きが国際社会の予想外であったのは確かだ。豪ドル、韓国ウォン、ニュージーランドドルなどが急落したり、ニューヨーク原油先物やロンドン市場の銅、アルミニウム先物が6年ぶりの安値となったり、米国や欧州株式市場も下落するなど、トレーダーの動きにも変化がでた。 今回の人民銀行のアクションは、大幅な切り下げ予測を否定し、緩やかで安定的な元安誘導をしていくというシグナルであり、人民元の一層の市場化にあたるという見方もある。
人民元下落で高まる「アジア危機」の懸念
多くのアナリストたちはこれで、人民元安圧力が落ち着くとは考えていない。スタンダードチャータード銀行のリポートでは、今回の調整により人民元の対米ドルレートはより市場主導になることを容認することを迫られ、次に変動幅を2%から3%に拡大していくのではないか、としている。 人民元安をコントロールしていけるというサインなのか、人民元の市場化を進めていくということなのか、大幅切り下げの前触れなのか、人民元大幅切り下げ予測を打ち消すためなのか。 いずれにしても、人民元がこれからどこまで下落するかを予測するのは難しく、ちょっとやそっとの切り下げ調整では、中国経済の根本的な回復につながりそうにない。 それどころか、日本円も人民元と連動して下がり続けており、アジア経済全体のリスクに波及していく予測もある。 そのほか、連載記事「それは、習近平の号令で始まった…、中国「金融大粛清」で給料50%カットの銀行員たちがたどる悲惨すぎる末路」では、現状の中国経済の窮地につながる習近平政権の政策についても解説しているので、ぜひ参考にしてほしい。
福島 香織(ジャーナリスト)