社説:プラ条約先送り 危機感を共有し一致点探れ
プラスチックごみによる環境汚染が広がり、人体への健康リスクが高まっている。国際社会で危機感を共有し、実効性あるルールづくりに向け、粘り強く一致点を探らねばならない。 プラごみ汚染対策の国際条約作りのため、韓国・釜山で開かれていた政府間交渉委員会は、条約案への合意を先送りした。 2022年の国連環境総会で条約策定を決め、5回目の今会合を最終と位置づけていた。 最大の懸案事項だった生産規制で、各国の主張の隔たりが埋まらなかったという。 世界共通の厳しい規制を求める欧州連合(EU)やアフリカ諸国、汚染に脅かされる島しょ国側に対し、原料となる石油を産出するサウジアラビアなど中東諸国やロシアは、需要減を懸念して強く反発した。 議長がとりまとめた草案では、国際的な削減目標を設定する案を示す一方、生産規制に関しては条文に盛り込まない案も残した。両論を並立させたことは、合意の困難さを表しているといえよう。 ただプラごみの削減や環境流出の防止を巡って、使い捨てプラの製造禁止といった選択肢が条文案に盛り込まれるなど一定の前進もみられる。生産規制にも踏み込みが不可欠だ。 プラごみ汚染は深刻化している。経済協力開発機構(OECD)によると、19年のプラスチックの廃棄量は20年前と比べて倍増した。自然に分解しにくいため海や川にそのまま流出し、50年には海中のプラごみの総重量が、全ての魚より多くなるとの予測もある。 特に近年、問題となっているのが、5ミリ以下に砕けたマイクロプラである。えさと間違え食べた魚を、摂取することで人体から検出されており、健康被害が危ぶまれる。 会合は来年に再び開くとみられるが、先行きは見通せない。各国が自分ごととして向き合い、合意形成へ歩み寄れるかが問われよう。 「EU寄り」との立場を示してきた米国は年明け、環境問題に消極的なトランプ氏が大統領に就任することで、後退する可能性も出ている。 日本は各国の状況に応じた規制をとるべきだとの中間的な立場とするが、どっちつかずの感が否めない。1人当たりのプラ容器包装の廃棄量は米国に次いで世界2位であり、「プラごみ発生大国」として削減目標を示すなどして、各国の橋渡し役を担うべきではないか。 これまでレジ袋の有料化は導入したものの、排出量の削減や熱回収中心となっているリサイクルなど不十分と言わざるを得ない。生産部分を含めた対策に力を入れていく必要がある。 国際機関とともにマイクロプラの調査研究などを進め、科学的根拠を示すことで対策の後押しにも尽力したい。