羊文学は、表現の芯を曲げずに進化する。『呪術廻戦』「渋谷事変」ED曲の秘話やバンドの現状への思いを聞いた
『呪術廻戦』ED曲を作るときに聴いた、安室奈美恵の楽曲
──では「INSPIRE TOKYO 2023 WINTER MUSICLICK LIVE」にちなんで、最近“INSPIRE”されたものを教えてください。 塩塚:最新曲「more than words」を作るときの話で。もちろんTVアニメ『呪術廻戦』「渋谷事変」のエンディングテーマということで、アニメや漫画もいろいろ見たんですが、安室奈美恵さんの「Baby Don't Cry」をめっちゃ聴きました。「more than words」を作るうえで、2000年代の歌姫と呼ばれる人たちの曲を参考にしたいなと思っていたんです。歌詞の流れとか視点の切り替わり方が面白いなと思って。それがきっかけで聴き始めたんですが、「Baby Don't Cry」を聴いていたらとにかくめっちゃ励まされて。シンプルにすごいパワーをもらえるんですよね。これくらい芯から人を励ませるような歌詞を書きたいと思って、「more than words」の書いているときは本当に何回も何回も「Baby Don't Cry」を聴いていました。もう酔っ払っていても全部歌えます(笑)。 河西:私は言葉で表現するのが苦手なので……本を読んだり、歌詞を読み取ってみたりするんですが。最近だと「夢で会いましょう」という村上春樹と糸井重里のショートショート集を読みました。 塩塚:私も読んだ! どうだった? 河西:辞典みたいに単語がタイトルになっていて、その単語から物語を発生させていくっていう内容で。面白かったです。 フクダ:僕は90年代のサブカルチャーに影響を受けていて。岡崎京子さんとか魚喃キリコさんとか。最近でいうと浅野いにおさんの新作(「MUJINA INTO THE DEEP」)を読んでます。浅野いにおさんは初期衝動をずっと持っていると言いますか、ずっと変わらずブレずに続けている姿勢が僕の支えになっているところがあって。僕も音楽をやるにあたって、その気持ちは持ってやっていたいなと思っているので、浅野いにおさんの新作を読んで、改めて勇気付けられました。 ──塩塚さんのお話にもありましたが、最新曲「more than words」がTVアニメ『呪術廻戦』「渋谷事変」ED曲としてオンエア中です。これまでとは違う広がりをしている楽曲でもあると思うので、この曲について少し聞かせてください。これまでもタイアップはあったかと思いますが、人気作の第2期ということでどのような想いで制作に向かいましたか? 塩塚:そうですね。絶対にいい曲を作りたいという気持ちで向かいました。自分たちの代表曲になるだろうと思ったので頑張って作りました。 ──作る上で意識したことは? 塩塚:今回は自分たちらしさと作品の重なる部分を大切にしようと思いました。だから歌詞は、もちろんアニメの内容に重なるところもありますけど、多くが自分の経験で。勇気付けられて一歩進めたときの自分のこと。そういう意味でもアニメのタイアップ曲でありながら、自分たちらしさを出せたなと思っています。 ──オンエア後やリリース後の反響はどのように捉えていますか? 河西:「羊文学ってこういうこともできるんだ」みたいな反応があったりして。それがうれしいです。自分たちでも新しいものができたと思っているので、それをわかってもらえてうれしいです。 ──おっしゃる通り、サウンドとしてはバンドの新境地でもあると思うのですが、ファンの皆さんもそれを楽しんでいる感じがして、すごく素敵な関係だなと思います。 塩塚:そうなんです。うれしいですね。 フクダ:新規のリスナーさんが増えたなということも感じます。今回は初めて四つ打ちを取り入れたり、新しいことにチャレンジしたんですが、それが初めて羊文学を知ったという人にもインパクトを与えられたり、聴きやすくなったりした要因の一つなのかなと思いますね。