羊文学は、表現の芯を曲げずに進化する。『呪術廻戦』「渋谷事変」ED曲の秘話やバンドの現状への思いを聞いた
「曲げたくないけど、天下を取りたいんです」
──今回の楽曲がまさにその結果の1つなのかなと思うのですが、先ほどお話にもあったように「メインストリームとアンダーグラウンドをつなげる」という想いが、羊文学の楽曲制作の根源になっているのでしょうか? 塩塚:そうやって言うと立派ですけど、ただ私たちがわがままなだけというか……曲げたくないけど、天下を取りたいんです(笑)。もちろんたくさんの人たちの働きの力のおかげでもありますけど、今は私たちがやりたいことが時代の感じとたまたまフィットしている。だったら、それを曲げずに行けるところまで行ってみたい。そう思っています。それを綺麗に言葉にすると「メインストリームとアンダーグラウンドをつなげる」になるのかもしれないですね。 ──なるほど。だから今回のような、タイアップをきっかけに新境地に挑戦するということも楽しんでやれているんでしょうね。 塩塚:「more than words」みたいな曲調はずっとやりたかったんですが、バンドではできないかなと思って、曲ができてもみんなにシェアしなかったんです。でもせっかく自分たちの名刺がわりの曲になるんだったら、本当に自分がやりたいと思っていることで看板を作った方がいいなと思って、今回2人にシェアしてみたらいい反応が返ってきて。 河西:デモはバンドサウンドというよりも打ち込みメインでダンスミュージックっぽかったんですけど、逆にバンドでやるのが想像つかないからこそ、やってみたいと思いました。 フクダ:タイアップのお話をいただいてから作ったので、無機質の中に温かさを感じる曲の雰囲気だったり、監督からいただいたワードだったりと、今までの羊文学の要素に、新しい要素が加わったという印象で。個人的には四つ打ちのアプローチも気に入っていますし、すごく誠実なものができたなと感じています。 ──12月6日には「more than words」も収録のアルバム『12 hugs (like butterflies)』がリリースされます。アルバムはどのような作品になっていますか? 塩塚:今までとはなんとなく違う感じのものができました。一見これまでの作品と似たような印象があるかもしれないんですけど、自分で全部を通して聴いたときに「今までの感じと違うぞ」と思って。なんて言うんだろう……外に向けてではなくて、自分に矢印が向いているというか。自分を大切にするとかそういうこと。そういうテーマにはずっと取り組んできたんですが、言葉じゃなくて、ナチュラルに矢印が自分に向いているんです。無理をしていない空気感が全体を通してあるというのが、今までのアルバムにはなかったなと感じています。 ──楽しみにしています。先ほど、「曲げないで天下を取りたい」というお話もありましたが、バンドとしての現在地はどのように捉えていますか? 河西:一歩一歩地道にやってきたので、あまり自分たちが今どのあたりにいるのかは見ていなくて。例えばエレベーターで一気に上がっていたら自分たちの場所が見えるかもしれないですが、そうじゃなくて山を登っているような感覚。でも、もしどこまで行っているか見えていたとしても、今まで大切にしてきた“曲げずにやっていく”ということは絶対に崩さないでいたいなと思っています。 ──その登った先の目指す場所のようなものはあるんでしょうか? 塩塚:そうですね。まだまだ始まったばっかりだと思っているんですが、例えばこの前は「ミュージックステーション」に初めて出演させていただいたりと、より多くの人の目に触れる機会が少しずつ増えてきているので、もっともっとそういうところで知っていただけるように、意味のあるいいものを作り続けていきたいです。あとは、4月に横浜アリーナ公演があるので、まずはそれを成功させて、そのあともっと大きい規模で回れるようにしたいです。 ──では最後に、改めて「INSPIRE TOKYO 2023 WINTER MUSICLICK LIVE」への意気込みを聞かせてください。 塩塚:KREVAさんとツーマンということで、私たちもとても気合いが入っています。私たちの音楽に初めて出会う方にも「面白いものに出会えて良かった」と言って帰っていただけるようなセットリストを持っていこうと思いますので、1人でも2人でも、何人でも(笑)、 ぜひ遊びに来てください。 (取材・文=小林千絵)