自民で検討「厚生労働省の分割案」とは? 坂東太郎のよく分かる時事用語
自民党行政改革推進本部(甘利明本部長)は厚生労働省の分割などを盛り込んだ提言の原案をまとめました。9月上旬に安倍晋三首相(自民党総裁)に渡す予定です。行革本部は1995(平成7)年に当時の橋本龍太郎総裁が置いた直属組織で、2001(同13)年の「中央省庁再編」へ誘った歴史があります。今回は「再々編」に向けた新たな動きといえましょう。
省庁再編後、分割案を一時検討
旧厚生省は1938(昭和13)年に旧内務省(戦後解体)から独立して置かれました。戦時体制が強まる中、体力に優れた国民を徴兵できるように、また戦死した遺族などへの補償を強める目的が主でした。 戦後、日本を占領した連合国軍最高司令官総司令部(GHQ)の方針で、労働組合法、労働関係調整法、労働基準法の「労働三法」が制定され、多くの組合の支持を得た片山哲日本社会党委員長が首相に就くと、公約していた労働省設置を実現させます。労働三法の制定過程で、政府にも独立した労働行政機関が必要という訴えが実ったのです。厚生省から分離して発足しました。 つまり2001年の中央省庁の再編で誕生した厚生労働省は同根であり、形式上は再統合ともいえます。 2007(平成19)年、「宙に浮いた年金」「消えた年金」などの年金記録問題で同省は大揺れ。08年8月に当時の福田康夫内閣が「厚生労働行政の在り方に関する懇談会」で見直し議論を開始しました。同年9月に福田内閣が総辞職し、麻生太郎内閣が後を襲います。その任期中に、組織の見直しなどを提言した最終報告をまとめました。一方で麻生内閣は09年4月から「安心社会実現会議」を開催。5月の会議で委員の一人から提案された厚労省の分割案に原則賛同し、経済財政諮問会議で「社会保障省」(年金、医療、介護)と「国民生活省」(雇用、少子化対策)に分割する案について検討するように指示します。 5月の会議で厚労省の分割案の検討を指示し、経済財政諮問会議で「社会保障省」(年金・医療・介護)と「国民生活省」(雇用・少子化対策)に分割する案を示して検討するように指示します。 ところが、この案はのっけから大不評。アイデアがざっくりしすぎていて細かな点が分からないことだらけ。特に首相が力を込めた「幼保一元化」について、自民党内からも一斉に批判の声が沸き起こりました。 幼保一元化とは、幼稚園(学校)と保育所(福祉)を一緒にしようという発想。背景に幼稚園の定員割れと待機児童問題(保育所不足)がありました。ただ前者は文部科学省、後者は厚労省と管轄が異なります。それを「国民生活省」で一元化しようというのだから大変です。文科省が「学校の機能を守れるのか」と反発するのは当然として、幼稚園側も特に「教育」へこだわりを持つ関係者が反対。さらに保育の関係者まで幼稚園と合同するのに嫌悪感を示す有り様でした。 麻生内閣では、小泉純一郎政権時に行われた2005(平成17)年9月の「郵政選挙」から4年の衆院議員任期満了が迫っていて、総選挙を前に支持母体を揺るがすのは得策でないということで早々に分割論を引っ込めてしまいます。 しばらく沙汰止みとなっていた分割案が、再び日の目を見るのが2016年。自民党内の「2020年以降の経済財政構想小委員会」がまとめた「厚生労働省のあり方について」です。事務局長を務めた小泉進次郎衆院議員に由来して「小泉小委員会」などと呼ばれていますが、この「あり方について」では分割案を3パターン示しているのです。 (1)社会保障(年金・医療・介護)、子ども子育て(少子化対策・子育て支援)、国民生活(雇用・再チャレンジ・女性支援) (2)社会保障(医療・介護)、子ども子育て(少子化対策・子育て支援)、国民生活(年金・雇用・再チャレンジ・女性支援) (3)社会保障(年金・医療・介護)、国民生活(少子化対策・子育て支援・雇用・再チャレンジ・女性支援)