『ルート29』森井勇佑監督が語る、綾瀬はるか&大沢一菜の稀有な魅力「綾瀬さんはそのまま、真っ直ぐに世界を見ている」
綾瀬はるかが主演を務める映画『ルート29』(11月8日公開)トーク付き試写会が10月23日に東京・映画美学校試写室で行われ、森井勇佑監督が出席した。 【写真を見る】綾瀬はるか&大沢一菜の魅力を語った『ルート29』トーク付き試写会の様子 監督デビュー作『こちらあみ子』(22)で第27回新藤兼人賞金賞をはじめ、数多くの賞を受賞した森井監督の最新作となる本作。他者と交わろうとしないひとりぼっちの“トンボ”ことのり子(綾瀬)が、風変わりな女の子ハル(大沢一菜)を連れて旅に出る姿を描く。MCは映画/音楽評論家の村尾泰郎が務めた。上映後の会場に登場した森井監督が「楽しんでいただけましたでしょうか」と問いかけると、観客からは大きな拍手が上がっていた。 森井監督は、中尾太一の詩集「ルート29、解放」からインスピレーションを受け、姫路と鳥取をつなぐ1本の国道29号線を1か月近く実際に旅しながら、独創的なオリジナル脚本を書き上げたという。中尾による詩集は物語として構成されているわけではなく「現代詩」だと解説した森井監督は、「最後まで読んだ時に、ざわざわとしたなかを1本の道が通っているようなイメージを持った」と回想。国道29号線を旅をするなかで、ドライブインや湖など「映画として使える」と感じた風景を組み合わせながら、「そこに合わせて、どのように登場人物を出したらおもしろいかを考えていった」と脚本作りの過程を振り返った。 映画は、風景も登場人物の一部だと感じられるようなものとして完成。森井監督は「人間だけを映すのではなく、風景や虫、動物など、そういったすべてのものと人間を同質に扱いたいと思っていました。この世界はいろいろなものにあふれている。ポリフォニー的と言いますか、人間以外のものも含めて、いろいろな宇宙があるということを描きたいと思っていた」と本作に込めた想いを語った。 のり子とハルは、様々な出会いを果たしつつ絆を深めながら旅をしていく。ハルは林の中で秘密基地を作って遊ぶような風変わりな女の子だ。ハルを演じるのは、森井監督の前作『こちらあみ子』で強烈な個性を放った大沢一菜。森井監督は「大沢一菜に対して、当て書きでハルという役を書いていた。当初は、のり子役は決まっていなかった」と告白した。 旅の相棒となるのり子とハルは同等な関係であることが欠かせなかったといい、「2人を完全に同等で描くためにはどうすればいいかと考えた時に、綾瀬はるかさんにお願いしたいと思った。綾瀬さんじゃなければ無理なのではないかと思った」と起用の理由を語る。キャリアも年齢も違う2人が同等の存在としてスクリーンに現れるというのは奇跡的かつ、不思議なことでもあるが、森井監督は綾瀬に特別な魅力を感じているという。綾瀬と大沢には「通じているものがある」と分析しながら、「綾瀬さんはちゃんとした大人なのに、どこか子どものようでもある。すごく素直で、変なフィルターを通さずにそのまま世界を見ている。大人になってそうすることはとても難しいこと。ここまでキャリアを積んでいて、そこまで真っ直ぐにものを見ている。本当に稀有な存在だと思いました」と力を込めていた。 一方の大沢については、「『こちらあみ子』の時とは違う」と変化も感じているという。森井監督は「『こちらあみ子』は、あみ子が自分で感じていることを相手に伝えられないという状態の話。極力、(大沢を)野放しにして撮っていたんですが、今回は綾瀬さん演じるのり子にモーションをかけたり、やさしさを示すようなシーンもある。脚本でその場面を書いたのは、一菜にはそれができると感じていたから。今回は一菜の人間としてのやさしさ、カッコよさを引き出したいなと思ってやっていました」と吐露。 大沢と交流を深めながら映画作りを共にしてきた森井監督だが、MCの村尾は「ハルとのり子が旅をするように、監督は大沢さんから刺激を受けて創作をしているようにも感じる」と2人の関係性に感じている印象を口にした。森井監督は「『こちらあみ子』を作った時に、救われている部分はあったんだと思います。ちょっと恥ずかしいですが、それへのアンサーとして作ったところもあると言えばあります」と照れ笑いをのぞかせながら、「今後も撮ってみたいです。天才だと思っています」と大沢の才能に惚れ惚れ。「撮れる機会があれば撮りたい」とさらなるタッグにも期待を膨らませ、村尾が「大人になった大沢さんを撮った、森井監督の作品も観てみたい」と希望すると、森井監督は「それはエモいですね」と目尻を下げていた。 不思議な味わいや余韻を残す本作。そして『こちらあみ子』にも、村尾は「どこか死の影がある」とコメント。森井監督は「死はずっとそばにあるもの」と死生感を語りながら、「今回は生まれる前についても描きたかった。虫や木、この2人(のり子とハル)、そして死も生も同質に描きたいと考えていたのかもしれない」と思いを巡らせながら、「難しく考えずに楽しんでもらおうと思って作った。楽しんでいただけたらうれしいです」と呼びかけていた。 取材・文/成田おり枝