「ポルシェのスポーツカーに乗り慣れているひとが乗り換えても違和感なし」 モータージャーナリストの田中誠司がポルシェ・カイエンSクーペほか5台の注目輸入車に試乗
人生を捧げてもいろんなクルマに乗ってみたい!
モータージャーナリストの田中誠司さんがエンジン大試乗会で試乗した5台のガイ車がこれ! BMW i5 M60 xドライブ、シトロエンE-C4シャイン、マセラティMC20チェロ、ポルシェ・カイエンSクーペ、フォルクスワーゲンID.4ライトに乗った本音とは? 【写真21枚】モータージャーナリストの田中誠司さんがエンジン大試乗会で乗った5台の注目輸入車の写真を見る ◆感性が呼び起こされる “ガイシャ”という言い方は正しくない、と長く勤めていた出版社では教わった。“日本車メーカー”という表現もNGだった。“外国車”もしくは“輸入車”、“日本メーカー”、“海外メーカー”という区分が正解とされた。 むろん、僕が本当にクルマに興味を持った10代終わり、輸入車を“ガイシャ”と呼ぶのは当然だった。順当に日本の自動車会社に就職した結果、決まったブランドのクルマにしか乗れないなんてつまらない。人生を捧げてもいろんなクルマに乗ってみたい……と雑誌屋になったのは、紛れもなく多彩な個性を備える“ガイシャ”の影響だ。 お腹一杯乗り尽くしたから、と雑誌屋稼業を離れて10年。大試乗会で一堂に会したクルマを次々に走らせると、豪華なコース料理を食すように各車の味わいが際立っているのを感じ、眠っていた感性が呼び起こされるようだった。 ◆BMW i5 M60 xドライブ「ドライバーが中心のクルマ」 半年ほど前、BMW i7 M60 xドライブを試乗する機会があった。巨大な体躯、強力かつ静粛極まるパワートレイン、自動開閉式のドアをはじめとする豪華絢爛の装備群には完全に圧倒された。しかし車内外騒音の遮断性があまりにも高いせいかスピード感覚がつかみにくく、適切なタイミングでステアリングを切れなくて難儀したり、車体の重さが気になるシーンを何度か経験し、自分の中の “BMW像”とは小さくないズレを意識させられたものだ。i5 M60 xドライブは、あと200万円足せばi7 M60が入手できる1548万円の高額車。満艦飾の装備や広大な空間という点ではi7に譲るが、いざ走らせてみればその足まわりは前後アクスルへの電子制御スタビライザー採用などにより精緻さを極め、442kWというシステム出力を寸分も持て余すことがない。「おもてなしするクルマ」であるi7に対し、i5は「ドライバーが中心のクルマ」に仕立てられている。エグゼクティブを相手とするクルマなら、こうしてヴィジョンやターゲットを明白にしておかなければ選ばれない、というBMWの主張と危機感が見えた。 ◆シトロエンE-C4シャイン「最も合理的なEVのカタチ」 フランスの実用車といえば、その昔から速すぎも贅沢すぎもせず、多少チープなところが見え隠れするのがチャームポイントで、さりとて操縦し積載するのに肝心な部分に手抜きはないことが特徴だった。シトロエンE-C4は電気自動車に生まれ変わりながら、その文脈に完全に従って作られているように見える。 車幅は1.8m、全高は日本の立体駐車場の多くが利用できる1.53mとされており、フロントマスクの存在感は強いものの全長は4.4m足らずに収められている。バッテリー容量を50kWhに留め、前輪を駆動するモーターも136ps/260Nmと控えめで、加速も航続距離も平凡ながら車両重量は1630kgと比較的軽く、時折郊外へ赴く程度のシティカーとしての使い勝手は申し分ない。フランス人が考える、現時点で最も合理的なEVのカタチ、なのだろう。 一番気に入ったのは操作に対する応答性が優れるステアリングと、シトロエンらしく安定感ある車体の挙動だ。助手席でドライブを楽しんだアルピーヌA110オーナーであるEPC会員も「これなら安心できるハンドリングですね」と感心してくれた。 ◆マセラティMC20チェロ「盛大な祭り」 10年くらい前のこと、現役に近いF1レースカーを改造して2人乗りにした“2シーターF1”で、アブダビのグランプリ・サーキットをドライブしたことがある。背後のV10ユニットの鋭さ・滑らかさにも驚かされたが、乗り心地が素晴らしいのが何より印象的だった。トレッドが広くサスペンションがよく動き、タイヤのハイトも高いことが奏功していたのだろう。MC20チェロで路上に繰り出して、脳裏に甦ったのはこの体験だ。シザー・ドアを備え、地を這うようなフォルムを持つ2シーターであるMC20だが、乗り心地がとてもいい。ロードカーとF1では目指すところが違うといっても、幅広く配置された4つのタイヤの中央近くに乗員が座り、優れたフットワークを目指すという大枠には共通性があるのではないか。エンジンは、5000rpmまでは低く唸って振動を伝えてくるだけに思えるが、そこから先で途端に俊敏さを増し、清流のような爽やかさを備えながら協和音とともに痛快なパワーが解き放たれる。神輿の代わりにマセラティのトライデントを担いで、盛大な祭りに参加している心持ちになる。 ◆ポルシェ・カイエンSクーペ「スポーティネスが強まった」 ポルシェのクレストを掲げたモデルには、闘うこと、速く走ることが運命づけられている。レース史を担い続けてきた911というモデルの“呪縛”から、ずっと逃れられなかったのもそれが理由だ。 ここ20年、むしろミドシップ・スポーツのボクスター、ケイマンやSUVのカイエン、マカンがポルシェのビジネスを牽引してきたのは誰もが知る事実だ。けれども911がより高性能を極める中で、ポルシェというブランドの本質がより先鋭化したのは間違いない。 そんな中、カイエンにはクーペが追加され、一度はV6を使っていたSモデルはV8エンジンに戻された。911がスポーティネスをさらに強める中、稼ぎ頭の他モデルにも同様のイメージが欠かせないのだろう。 クーペSの最新モデルは、7000rpmまで淀みなく続く太いトルク、レスポンスに優れるトランスミッション・ステアリングとあいまって、ポルシェのスポーツカーに乗り慣れているひとが乗り換えても違和感をまったく覚えないはずだ。状況が許す限り速く走らせて、日常にカレラのムードを持ち込みたくなる。 ◆フォルクスワーゲンID.4ライト「EVだからこそ開拓できた境地」 リアエンジン・リアドライブ(RR)のビートルことタイプIから、フロントエンジン・フロントドライブ(FF)のゴルフへ一気にシフトして世界の実用車のスタンダードとなったVWは、電気自動車のID.4でふたたびRRへ転じて世界を驚かせた。ディーゼル車をめぐる不正問題を経てなんとなく元気のなかったVWだが、EV専用プラットフォームMEBには彼らが蓄えた巨大な熱量が注ぎ込まれている。大きな発進トルクを後輪で受け止め、居住スペースを前方に拡大するパッケージングの大転換を図った車体は、並外れて強固な印象を操る者に与える。小回りも得意だ。EVだからこそ開拓できた境地がそこにある。ID.4ライトはバッテリー容量とモーター出力、装備レベルを絞り込み、上級グレードのプロより2割ほど低い価格を実現。車重も1割ほど軽く、加速力は日常用途であれば充分だ。ホイール・サイズが小型化され、乗り心地が良いのも好ましい。けれどID.4が全体にきわめて高い完成度を誇るモデルであるだけに、自分なら控えめ性能のライトでは我慢できず、プロに行ってしまいそうだ。 文=田中 誠司 (ENGINE2024年4月号)
ENGINE編集部
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