〈「日本から学びたい」中国人経営者〉日本でMBA取得が広がる理由、垣間見える日中ビジネス潮流の変化
中国から飛び出し、日本へと移住する中国人富裕層が増加しているが、単なる移住ではなく、日本の大学院で経営学修士(MBA)などの学位を取得しようとする経営者もいる。このほど『日本のなかの中国』(日経プレミアシリーズ)を出版した中島恵さんが、その実情をリポートする。(本稿は同著の一部を再編集したものです) JR総武線、大久保駅(東京・新宿区)から徒歩5分ほどの距離に、2019年に開設された桜美林大学新宿キャンパスがある。そこに同時期に開設されたのが「中国語MBA(経営学修士)プログラム」だ。 筆者は同大学院長、国際学術研究科長も兼任する雷海涛教授の研究室を訪ねた。雷氏は62年生まれ、北京市出身。名門の浙江大学を卒業し、86年に来日。東京大学大学院博士課程を修了後、長く東芝で働き、中国室長などをつとめた。18年に同大学に転職、グローバルビジネスなどの科目を指導する傍ら、中国語MBAを総括している。 「MBAの基本科目に加えて、日中ビジネス、日本企業の経営、ガバナンス、日中イノベーション、事業継承など、中国人経営者が関心のある分野の授業を揃えているのが特徴です」(雷氏) 24年度は中国人19人が入学。授業、論文執筆、ディスカッションなどはすべて中国語で行い、講師は桜美林大学の中国人教授や講師、中国語で授業ができる日本人などに依頼しているという。 日本で、中国語でMBAを取得できるのは、24年現在、同大学だけだ。大学はとくに宣伝はしていないというが、多くの中国人が口コミなどでその存在を知り、入学してきた。 学生は20~50代の経営者や起業経験者で、平均年齢は35歳前後。彼らの多くが創業者だ。日本語はほとんどできず、入学を機に来日した人が多い。入学者は留学ビザを取得できるが、日本支社を作るなどして、経営・管理ビザを取得してくる人もいるという。
経営・管理ビザとは、日本で貿易その他の事業の経営を行い、または、当該事業の管理に従事する活動を行うための在留資格だ。23年は約1万7800人の中国人がこれを取得した。