今江が語る、ロッテ逆襲のシナリオ
伊東監督の就任で変わったベンチの雰囲気
今年の千葉ロッテはなぜ勝てているのですか? いろんな人に聞かれます。確かに開幕前には、大半の評論家の方々の順位予想は最下位でした。監督は代わりましたが、オフにFAなどの大きな補強はありませんでした。戦力だけを見て、そう予想を立てられるのも、しょうがなかったかもしれません。しかし、僕ら選手側からすれば、あまり気分のいいものではありません。 野球とは『投打の噛み合わせ』だと考えています。 ピッチャーが抑え、守備は守り、バッターがしっかりと要所で打つ。前半戦の千葉ロッテは、その投打守の噛み合わせが、良すぎるくらいに良かったのです。ピッチャーが崩れれば打線が奮起する。打線が苦しんでいる時はピッチャーが我慢のピッチングを続ける。 お互いがカバーをしつつ調和が取れていました。“投打のハーモニー”がいい音色を出していたのです。でも、長いシーズンを考えると必ず悪い時期が来ます。ブラゼルという頼れる助っ人が来てくれましたが、十分な戦力のないチームこそ、投打が噛み合って、ひとつにならなければ、ちょっとでも何かが崩れるとバラバラになります。前半戦の終盤には、6連敗するなど、お互いがカバーしあえていない状態がありました。その悪い流れをどれだけ短期間で断ち切って再び右肩上がりの状態にできるか。後半の逆襲のためには、そこが重要でしょう。 ロッテ今江が語る、僕が引退を考えた日 伊東新監督は、チーム全体を「やるぞ」という気持ちにさせる雰囲気作りの上手い監督です。チームモチベーションをアップする操縦術に長けた人です。 とにかく積極的に選手に声をかけてくれます。ベンチでは伊東監督の声が響きわたっています。前回のコラムで僕がバッティング不振だった時に監督のアドバイスが転機になった話を書きましたが、選手心理を把握して気持ちが勝利に向かうような言葉をかけてくれるのです。野球選手は、個人事業主です。ある意味、自分の成績さえ良ければいいという個人主義的な考え方を持つことも否定できない世界です。それゆえチームが優勝争いから離れたりすると、ついつい「チームのために勝つ」というチームプレーの大原則を忘れがちになります。伊東監督は、そういう選手心理を見逃さず、時には冗談を交えながら、勝利への意識、チーム貢献への責任というものを高める言葉を選手にかけてくれるのです 特にベンチでスタンバイしている選手に「チームのために」と思わせる雰囲気を作ってくれます。ゲーム展開にもよりますが、思い切った采配をされます。 守備の交代や代打、代走と、常に目配せをされながら早目、早目に決断をされ、動かれます。選手は、どんな展開であれ、「試合に出たい」、「頑張りたい」と考えています。伊東監督は、ベンチにいる全員のモチベーションをアップするような采配をされます。若手を含め多くの選手がチャンスをもらえるのでベンチにいる全員が試合に集中して出番を待ち、気持ちを高め、準備をすることにつながります。チーム集中力が生まれるのです。 伊東監督は、若い選手に思い切って出場機会を与え、育成だった西野勇士や鈴木大地ら新しい選手が出てきました。若い選手が出てこない限りチームは強くなりません。2005年に成し遂げた日本一も、僕や西岡剛(現阪神)ら怖いもの知らずの若い力の爆発がチームに風を吹かせました。その後、何年も僕がチーム内で一番年下の若手という立場が続きましたが、今年は、まだ29歳なのにベテランのような立ち位置に変わりました。チームの血が入れ替わったのです。「若い奴には負けたくない」というライバル心と同時に、彼らからもたくさん学ぶことがあって大きな刺激を与えてもらっています。