【アメリカから見たTPP(7)】TPPは「対中国包囲網」なのか?
米プリンストン大で行われたクリスティーナ・デイビス教授へのインタビュー(Matthew Kolasa撮影)
環太平洋経済連携協定(TPP)でもっとも目を引く部分は、もしかすると「大きな存在の不在」かもしれない。それは中国だ。TPPは中国を封じめるための日米の戦略なのか。米プリンストン大学のウッドロー・ウィルソン国際公共政策大学院教授で、日米関係と国際貿易の専門家のクリスティーナ・デイビス教授に聞いた。
「中国封じのTPP」というレトリック
世界貿易機関(WTO)のドーハ・ラウンドにおける貿易交渉で進展がなかったことで、先進国は大規模な地域協定を目指すことになった。それが、北アメリカとヨーロッパの「環大西洋貿易投資連携協定」(TTIP)や、今回の環太平洋地域におけるTPPだ。昨年最終合意に達したTPPの参加国は12カ国に上るが、そこでは中国が除かれている。中国が入っていない理由は、規制基準を満たす能力に乏しいからなのか、それとも、太平洋やより大きな世界で、中国の経済力を封じ込めようとする計算された試みなのか。 質問に対し、デイビス教授は「その両方の説明を聞いている」と答えた。「確かにアメリカでは自国が国際ルールを設定する手段として、日本では貿易を深化させることで日米同盟を強化するという地政学的な手段として、TPPが説明される向きがあります。TPPに対する支持獲得のために日本とアメリカで使われたこのレトリックは、この協定が中国を封じ込めるためにあるということを示唆しています」
「中国ではなくアメリカがルール形成」とオバマ大統領
この説明は、日本やアメリカでTPPの国内の支持を獲得するために有効だ。アメリカでは近年、反中感情が高まっている。オバマ大統領はTPP協定を、国際的な舞台でのアメリカのリーダーシップの勝利だと自賛している。 「TPPは、世界の貿易政策に対するアメリカの支配を強める手段だとも見なされてきました。オバマ大統領の発言を、一般教書演説から、合意の際の報道発表まで見てみると興味深いことが分かります。オバマ大統領は世界の貿易ルールを形成するにあたってのアメリカの役割について語っており、アメリカは中国がそのルールを形成することを望まないと示唆し、時に明言しているのです。これはTPPの地政学的な要素で、『誰がルールを設定するか?』をめぐっては競争があります」