備蓄だけでは限界が? 専門家が教える「災害時に本当に必要なもの」
自分自身が防災力を身につける
【佐藤】ところでマミさんは、「災害時に必要なものは何ですか?」って聞かれたら、なんて答えますか? 【マミ】「命」かな。 【佐藤】そう、命があるから災害時を乗り越えられるんですよね。この質問には、「水でしょ、防寒グッズでしょ、衣類でしょ、懐中電灯でしょ......」と30品ぐらい挙げる人もいると思いますが、それで生活と命を守れるかというと、そんなことはないんです。災害時に必要なのは、命と生活を守るための、ありとあらゆるモノ。 【マミ】それは、人それぞれ違いますね。 【佐藤】はい、私たちは、日常時から非常時に、このままの肉体と、このままの精神で突入します。急に体が強くなったり、急に気持ちがタフになったりするわけではない。そう考えると、普段の暮らしを支えるすべてのモノが、非常時にも必要です。音楽だって娯楽だって、必要。何か特定のモノを備えて終わり、とはならないんです。 【マミ】いまお話をうかがって、「災害時に必要なもの」をひとつ付け加えたくなりました。モノのある・ないに自分で対応する「能力」もあればいいですよね。災害時にも私たちの普段の生活を支えているありとあらゆるモノが必要だけれども、キャンプをしていると、モノがない、という状況を体験します。それも普段の生活のひとつのパターンなら、災害時にすべてのモノがなくても対応できると思うんです。 【佐藤】マミさんたちはキャンプをたくさん経験することでその能力が身につき、あらゆるフェーズがなかったから、それと暮らしを結びつけて提案できるんですね。しかもそれが、生活者としての視点で考えられているから、説得力がある。 日本は災害が多いといわれますが、それでも実際に被災する人は、世の中の数パーセントなんです。被災した経験がなくても、防災を考え、提案していくことができるのは、その生活者としての地に足ついたキャンプ活動があったからでしょうね。 【マミ】そう考えると、家の環境やそこにあるモノをフェーズフリーにしていくというよりは、「私自身がフェーズフリー」って感覚になっていくんですよ。 【佐藤】それはいい考えですね。フェーズフリーのアイテムを使うのもいいですが、フェーズフリーの考え方を自分のなかに取り入れるということですよね。たとえば食料がキャベツしかなくて火も包丁も使えないというときに、キャベツをバリッと割って塩昆布で混ぜたらおいしいおかずになる。これは手抜き料理のようでいて、災害時にも作れるから"フェーズフリー"。 私は、モノを備えるだけの防災では限界があると思っています。「自分自身がフェーズフリー」として生活していくほうが現実的だし、災害時にもいろんなことを乗り切る力が身につきますね。
佐藤唯行(フェーズフリー協会代表),マミ(CAMMOC)