羽生のSP世界最高得点を生んだ新好敵手の存在
フィギュアスケートのグランプリシリーズNHK杯が27日、長野市ビッグハットで行われ、男子SPで、ソチ五輪金メダリストの羽生結弦(20歳、ANA)が、4回転を2つ入れる高難度のプログラムに挑戦、ほぼノーミスで滑って、自身がソチ五輪で記録していたSPの世界最高得点を更新する106.33点でトップに立った。 実はその裏には、羽生がトップに君臨する理由が見え隠れしていた。羽生はGPシリーズのカナダ大会のSPのプログラムから大きく変更、冒頭に4回転サルコウ、続けて4回転トゥループ+3回転トゥループのコンビネーションジャンプを組み入れるという新しい高難度のプログラムに挑戦した。羽生に変更を決意させたのは、ジュニアのカテゴリーから飛び出てきた新星、金博洋(18歳、中国)の存在だった。 金は、先の中国大会でも、冒頭の4回転ルッツ+3回点トーループ、後半にも4回転トゥループを入れるプログラムで臨み2位に入った。4回転ジャンプには「天天」と呼ばれるほどの高さがあり、練習も含めて、その成功確率が、7割を超えているのが特徴。4回転ルッツをここまで見事に決めるのは金しかいない。 「(五輪で)連覇するためには圧倒的に強くならねばならない」と考える羽生は、技術点でも金を圧倒するために、あえて4回転2つのプログラムを組んだのだ。 あるフィギュア関係者は「羽生の強さの秘密は、その負けん気の強さ。意識していないと、いつも言うが、金博洋に負けたくないとの思いが、このプログラムへ挑戦させたのではないか」と言う。 また新プログラムで、4回転ジャンプは2つになったが、苦手な3回転ルッツを回避できるという羽生にとっての利点もあった。 その金は、第2グループの最終滑走者として登場、冒頭で4回転ルッツ+3回転トゥーループを成功させて、このジャンプだけで19.33点をマークするなど、2度の4回転ジャンプを成功させて、羽生の前の時点で今季世界最高の95.64点を叩き出していた。 羽生は映像は見ていなかったというが、日本語のアナウンスで、その得点を耳にして「絶対に抜かしてやる。見てろよって思った」と言う。 若きライバルの演技に刺激され、気力を充満させた羽生は、冒頭の4回転サルコーでは、空中の体勢が良くなかったが、着氷はなんとかこらえた。「体の軸が斜めになったのが原因ですが、着氷の滑りに流れがあるので崩れませんでした。4回転に対する自信でしょう」とは、元全日本4位で、フィギュアに関する著書もある現在インストラクターの今川知子さんの分析。羽生は、着氷をこらえた動揺をまったくその後の演技に影響させず、続く4回転トゥーループ+3回転トゥーループはパーフェクトに決めた。公式試合で初めて成功したコンビネーションジャンプだった。