渡辺えり古稀記念2作連続公演『鯨よ!私の手に乗れ』『りぼん』【中井美穂 めくるめく演劇チラシの世界】
見るたびに新たな発見のあるチラシ
中井 このチラシは赤と青の色合いも印象的ですが、全体的な色合いはどのようにして決めましたか? 渡辺 『りぼん』は青いリボンが実際に作品に出てくるから青。その対比でもう一方は赤にしようと。 立花 アングラ感が出るように、反対色に近い組み合わせで刺激的にしたいと考えていたのと、赤と青を足すと古稀カラーの紫になるのも面白いなとも思っていたので、あまり意識せずに青と赤を選んでいました。 中井 グラデーションの上に文字が載っているタイトルは、すごくアングラっぽさがありますね。 立花 タイトルは、もともとは白抜きにしていました。でも「白抜きは弱い」とえりさんにご指摘いただいて。えりさんの感性、何をいいと思われるのかを対話して知っていく、それをデザインに反映することはすごく重要でしたね。 中井 裏面も色を象徴的に使って、タイトルから内容、チケット販売日へと目線が誘導されるようになっていますね。 立花 演劇のチラシって、裏面がちゃんと組まれてないものが多いイメージがありまして。表面のビジュアライズも大切なのですが、情報を整理して順序立てて伝えるのはデザインの本分のひとつなので、裏面はしっかり組むように意識しています。あと、今回はご年配の方もチラシを手にとられると思ったので、読みやすさも意識しました。 渡辺 もう、みんな年配になっちゃったので。 中井 私も小さい文字がよみづらくなってきたのでよくわかります。裏面の読みやすさは、すごく重要ですね。立花さんは、チラシ作りにおいて何がいちばん大事だと思いますか? 立花 チラシが担えることはそれほど多くはなくて、「この日に公演をやるんだ」と知ってもらうためのきっかけを与えることくらいだと思うんです。だからこそ、作品の結晶みたいなものをどこまで遠くに届けられるかが重要かなと。演劇って折り込み文化じゃないですか。小劇場の演劇を観ている人たちの中で奪い合いになってしまうところを、できる限り外の人にも観てもらえるように、という意識はしています。 渡辺 それは大事ですね。 中井 それにしても、コラージュはバランスが難しいと思いますが、このチラシでも何度かやりとりを? 渡辺 かなり何回も作り直してもらいました。この(『りぼん』のデザインにある)足は、最初きれいな欧米人の足だったのを、日本人のものにしてもらったり。これ、デザイナーさんの足なんですよ。 立花 このコラージュを作ったSERINAさんご本人の足です(笑)。 渡辺 『鯨よ!私の手に乗れ』のほうでは、私の顔がえぐられてますからね(笑)。 中井 これ、他の人ならNGかもしれませんけど、えりさんはOKを出されたのですね! 渡辺 ダリの絵画でダリの奥さんがよくえぐられていたりするし、まあいいかと思って。 中井 面白いです。 渡辺 アングラってアバンギャルド、前衛という意味だもんね。だからグッと鋭く来るものがないと、アングラとは言えないですよね。……今気づいたけど、『りぼん』の地面に埋もれているこれは何? 立花 人の顔ですね。木の下に人がいるという。 渡辺 今日気がついた。これ、室井滋さんの顔にすればよかったね(笑)。 中井 こんなに毎日見ているはずのえりさんでもまだ気づく余地があるのだから楽しいですよね。えりさんのお父様とお母様のお写真が実は隠れているとか、子供時代のえりさんがいるとか、私たち観客も見るたびに発見していく。 立花 えりさんの作品は読むたびに得られるものが違う感覚がある、それがこのコラージュの楽しさに通じるなと思っています。だからもし、また次にご一緒できたとしても、やっぱりコラージュを提案してしまうかもしれません(笑)。