地主の相続対策、安易な「都市部の収益不動産の購入」が痛い目を見るワケ…価格変動にどう対処する?【元メガ・大手地銀の銀行員の助言】
定期的に不動産の相続評価を
相続にあたって死亡者数に対する課税件数(課税件数割合)が約10%(10人に1人)となっている。平成27年からの基礎控除の改正により課税件数割合は大きく上昇したが、その後も右肩上がりに増えている。 また、相続税収も同様に増えているが、この構成要素を考えると死亡者数の増加(図表7のとおり死亡者数は年々増加傾向)はさることながら、金融資産の増加、不動産の相続評価の増加が影響しているものと思われる。 今後も不動産価格の上昇に伴い課税件数割合は増えていくものと思われる。 前述のとおり、公示価格は右肩上がりであり数年前に相続税試算を行っていたとしても直近において再度試算した相続税額が異なっている可能性が考えられる。所有不動産は金融資産と比べて価格の変動が見えにくい(たとえば預金や株式などの金融資産であれば、いつでも目視可能)。 したがって、昨今の不動産上昇局面においては定期的に所有不動産の相続評価を実施しておくことが大切である。
まとめ:不動産の価格変動に注意しながら、事前の対策を
地主の相続対策として都市部に収益不動産を購入するケースがある。不動産賃料収入は賃貸借契約により縛られていることから不動産価格の上昇に対して、賃料の上昇は遅行性がある。 仮に、不動産価格に比例して賃料が上昇するのであれば、納税準備資金も増えていくと考えられるが、賃料の遅効性があることから納税準備資金が不足するリスクが考えられる。 借地借家法は賃借人の保護を目的としていることから、貸主都合で簡単に立退きや賃料の上昇を実現できるのもではない。充分に納税準備資金が確保できていると思い込んでいても、不動産価格の上昇によって不足している可能性があることを念頭に入れて対策を進めたい。 また、「不動産価格が上昇しているなら相続後ただちに売却して現金化すればいいではないか」との考えもあると思うが、過度な相続対策として否認されるリスクがあるため適切な対応ではない。 地主の相続対策においては所有不動産の価格変動に注視し、円滑な承継をおこなうために継続的に準備を行っていくことが望ましい。 参考 ※1: https://www.mlit.go.jp/totikensangyo/totikensangyo_fr4_000043.html ※2: https://www.fudousan-kanteishi.or.jp/koutekihyouka_minkanhyouka/ ※3: https://www.mlit.go.jp/common/001333767.pdf ※4: https://www.zaimu.metro.tokyo.lg.jp/documents/d/zaimu/06koujikakakusui__7 ※5: https://www.mlit.go.jp/tochi_fudousan_kensetsugyo/content/001724185.pdf ※6: https://www.mof.go.jp/tax_policy/summary/property/e02.htm ※7: https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/geppo/nengai22/dl/gaikyouR4.pdf 小俣 年穂 ティー・コンサル株式会社 代表取締役 <保有資格> 不動産鑑定士 一級ファイナンシャル・プランニング技能士 宅地建物取引士
小俣 年穂