気温40度で湿度80%、途上国にトイレ届ける職人たち
同社が掲げる、「世界中の誰もが願う、豊かで快適な住まいの実現」というパーパス(存在意義)の達成に向けて、現在は2025年までに1億人の環境改善を目標に置く。トイレ1台を家族やコミュニティー全員で使うことがある。出荷した台数から計算して、約4000万人の衛生環境の改善に貢献してきた。 SATOの仕組みはこうだ。自宅周辺に排泄物を貯める穴を掘り、その上にトイレ容器を設置する。少量の水で洗浄ができる。排泄物を流すときに開くカウンターウエイト式の開閉弁がハエなどの虫による病原菌の媒介や悪臭を抑える設計になっている。
■「子どもの笑顔が見たいから」、バングラデシュに来た
SATO事業のアジア地域全体の責任者である、リクシルの坂田優・SATO事業部アジア地域営業リーダーは、2018年にバングラデシュに赴任した。36歳の時だった。 これまで縁のなかった異国の地で働くことを選んだきっかけは、「子どもの笑顔」と語る。SATOを開発した、石山大吾・SATO事業部イノベーションリーダーに誘われて、バングラデシュの農村部を訪問した。 道中に、坂田氏は石山氏に、この国で働き続けるモチベーションを聞いた。すると石山氏は、「子どもの笑顔が見れるのが楽しいから」と答えた。 それまで国内で営業を担当していた坂田氏にとって、エンドユーザーの反応がダイレクトに見えるその言葉は胸に刺さった。こうして、2018年にバングラデシュ行きを決めた。
現地では先任者が一人もおらず、まずはパートナー団体を頼りにネットワークを構築していった。 SATOの主な対象は、途上国の女性や少女だ。採算性が課題だが、衛生課題が解決することで、同ブランドへの信頼が増し、長期的には顧客の開拓につながると考えた。まさに、SDGsが掲げる公式用語「アウトサイド・イン(社会課題起点のビジネス創出)」の好事例である。 一般的な企業は「顧客ニーズ」に対応しようとするが、顧客の後ろ側にある「社会ニーズ」に対応すれば、同業他社に先駆けて、ビジネスのニーズやシーズを見つけることができるという考えだ。 坂田氏によると、SATOはエンゲージメントにも一役買っているという。「SATOをやりたいからリクシルに入りたいという新卒希望者が増えている。社内でボランティアを募ると、多くの若手社員が集まる」(坂田氏)。 坂田氏は、現地のパートナー団体と連携を強化して、SATOを広めていきたいと力を込めた。