義足のパラアスリート「明日が来るのがしんどかった」 プロがひと目で見抜いた「本当の美しさ」とは
障がいがある人たちが所属するモデル事務所がある。パリ・コレクションを経験した元モデルの高木真理子さん(61)が代表を務めるグローバル・モデル・ソサイエティー(GMS)だ。所属する人々は、なぜモデル活動を選んだのか。 【写真】義足のパラアスリートに「表情や動作すべてが美しい」とプロ * * * ■顔の表情や動作すべてが美しい 「モデルの活動をとおして、誰かの活力になりたい」 こう話すのは、パリ・パラリンピックの陸上200メートルで義足の選手として、7位入賞した井谷俊介さん(29)だ。 高木さんが着物のイベントで出会い、ひと目で「モデルになれそう」と声をかけた。 「走っていても、顔の表情や動作すべてが美しく、背中でも人の視線を引き付けることができる。清潔感とともに、目標を持っている人の力強い表情がある」(高木さん) ■パラリンピックに出たら… 井谷さんは20歳の時、交通事故により右足の膝から下を切断した。直後は現実を受け入れられず、「明日が来るのがしんどかった」(井谷さん)。付き添ってくれた家族や友人が同じように苦しんでいるのを見て、初めは強がりで前向きになった。すると、まわりが笑顔になり、自分も元気になった。 入院中に見た、米国の義足のユーチューバーの女性2人がカフェで過ごしている動画も転機になった。義足に花模様をあしらい、おしゃれで自然体だった。かっこいい姿に力づけられた。 義足の体験会で走ったのをきっかけに陸上競技を始めると、家族や友人が喜んでくれた。 「パラリンピックに出たら、さらに多くの人を喜ばせられる」と、東京パラリンピックを目指した。陸上用の義足はブレードやソケットを合わせて150万円かかる。自分の思いをプレゼンテーションで伝え、購入の支援を得ることができた。トレーニング環境や就職、住居もさまざまな人たちの協力で実現した。 陸上を始めて10カ月後、2018年のアジアパラ競技大会で優勝した。19年の世界パラ陸上競技選手権大会では100メートルと200メートルで決勝進出と順調だった。 「調子に乗ってしまった。『自分が楽しければいい』となったとたん、成績が落ちて東京パラリンピックには出られませんでした」(井谷さん)