義足のパラアスリート「明日が来るのがしんどかった」 プロがひと目で見抜いた「本当の美しさ」とは
■同じ状況にある人の力になりたい 半年ほど、友だちと朝まで遊ぶなど怠惰に過ごした。自分の欲がすべてになると、がんばれない。情熱がわかない。まわりの人に叱られ、「自分ひとりの力ではなく、人の支えのもとに自分がいる」と原点に立ち戻った。練習を再開し、23年に出場したアジアパラ競技大会の200メートルでは、アジア新記録で優勝した。 「自分と同じ状況にある人の力になりたい」との思いを強くした。 井谷さんのもとには、障がいのある人や何かをあきらめたけれど再び挑戦したい人などから、メッセージが届く。陸上競技をしている中学生、生きるのがつらい高校生もいた。 「誰もがコンプレックスや不利な状況はあるけれど、そこに焦点を当てすぎてあきらめてしまうことが多い」(井谷さん) 足をなくした自分が走ることで、誰かのためになる。人のためを思えるから、自分自身も力が出せる。陸上競技やモデルとしての挑戦や発信をとおして、人の心に届けたい。 ■誰もが平等に暮らせる社会に GMS代表の高木さんがめざすのは、井谷さんのように、美しさだけではなく「人として手本になれるモデル」の養成だ。「身長が180センチなければだめ」といったファッション界での基準だけではなく、いろいろな障がいはあっても、がんばりや人柄など人間性も含めた視点で、多くの業界でモデルが活躍する場を増やしていきたいと考える。 「この人のようになりたい」と思われる人がモデルになってもいい。高木さんは、「私も80歳でパリ・コレクションを目指したい」と話す。 「障がい者のモデルがいるのが『ふつう』になれば、障がいのある人もない人も平等に暮らせる社会のノーマライゼーション化も同時に進むと考えています」 (ライター・斉藤真紀子)
斉藤真紀子