世界最強王者との大晦日決戦 無名挑戦者は「99%勝てない」
先月中旬にオファーをもらった天笠は、「え? あのリゴンドーと俺が?現実にやれるの?」と驚き、3日間、態度を保留した。しかも、2004年のプロデビュー後、一度も落としたことのない、ひとつ下の階級。所属ジムの山上哲也会長も母親も反対したという。 「僕なんかが挑戦者でいいのかと迷いました。対戦なんて想像もできない雲の上のボクサーですから。でも、リゴンドーと対戦できるなんて世界チャンプになるより難しいこと。これ以上光栄なことはありません。恐怖感が半分ありますが、勝てる相手との試合は勝負じゃない。ボクサーとしての原点に帰って挑戦心が持てると思った。僕のボクシング人生は運がいいのでポジティブに考えることにしました」 「99%勝てない」と思う試合を決めたのは、ボクサーとしてのさがだ。 ボクシングファン以外には、無名の天笠を、ひとことで表現すれば、変則の一発屋だ。1985年群馬出身の29歳。不登校生の過去を持つ叩き上げボクサーで、戦績は34戦28勝(19KO)4敗2分で高いKO率を誇る。2011年に日本フェザー級王座を獲得、2013年に東洋太平洋王座を奪った。10月15日に行われたV3戦は、竹中良に11回までポイントで圧倒されなから最終ラウンドに逆転KO勝利。179cmの長身で、左右のフックが必殺のブロー。「軌道と出所が見えない」というフックが特徴だ。チーフトレーナーは「普通のボクシングならまず通用しないが、天笠は変則だから一発のチャンスがあるのかもしれない」という。すでに沖縄で1週間のキャンプを終え、減量についても、「元々、5キロくらいしか落とさないし、残り4キロです。心配はありません」と天笠も言う。 「リゴンドーは慎重だが格下だと思ったら、そうでないときがある。こちらから狙ったパンチは当たりませんから、内に入らせておいて相打ちを仕掛けたい。あえてリゴンドーのパンチが効いたふりをして、引き出してくるのも、ひとつの作戦かなと研究しています。ビビることなく集中して戦うこと。もしかして速すぎてパンチが見えないかもしれないけれど(笑)、目をつぶってパンチを打ったほうが当たるかもしれない」 たまたま巡ってきた世界戦。失うもののない天笠は、いちかばちかの大番狂わせをたくらんでいる。大晦日の奇跡を起こせば、無名ボクサーが一瞬にしてシンデレラ物語を演じることになるだろう。ボクシングファンにしてみれば、垂涎のビッグネームの来日だが、その一方で、結果次第では、テレビ局主導の究極のミスマッチとして批判され終わる可能性も否定できない。 TBSの大晦日カードは、他に井岡一翔の世界前哨戦、高山勝成の世界戦を用意しているが、このリゴンドーの登場カードがメインとなる予定。ちなみに、この試合は、WBOの世界タイトル戦とはなるが、WBA王座も賭けての統一戦となるかどうかはWBAの責任者が来日後、交渉によって決められる。 (文責・本郷陽一/論スポ、アスリートジャーナル)