南海トラフ地震を想定した防災 強い構造の堤防や高さ13メートルの防潮堤
予知防災の変更に地元自治体は?
国は東海地震の予知を前提とした防災を見直し、南海トラフ地震の震源域全体を見据えた新たな対応を図ることを決め、11月から暫定的に取り組みをスタートさせた。 10月末には関係自治体の担当者を集めて名古屋市内で説明会を行い、内閣府や気象庁などの担当者が「南海トラフ地震に関連する情報」の発表について、そしてその際の政府対応について説明を行った。 これまでの大規模地震対策特別措置法にもとづく東海地震対応では、気象庁が定例の判定会の結果を定例として発表していたほか、観測データに異常が見られた場合には臨時情報を、東海地震の前兆の可能性が高いと判定された場合には注意情報、東海地震が発生するおそれがあると判定された場合には内閣総理大臣が警戒宣言を出して予知情報を発表する仕組みとなっていた。 今年11月からは、新たな防災対応が定められるまでの間の暫定的な措置として、発生した地震や現象が南海トラフ沿いの大規模な地震と関連するのかどうか調査を開始した時、そして南海トラフ沿いの大規模な地震発生の可能性が平常時に比べ相対的に高まったと評価された時はそれぞれ臨時情報が発表され、また、地震発生が相対的に高まった状態でなくなったと評価された時もその情報を気象庁が発表するという。 判定は、東海地震の判定会メンバーと同じメンバーで構成する「南海トラフ沿いの地震に関する評価検討会」が行う。南海トラフ地震は一過性の地震ではなく、局地的な地震発生からマグニチュード8を超す巨大地震へと連鎖的につながっていく恐れがあることから、仮に検討会が南海トラフ地震発生の可能性が高まったと評価した場合、どのような対応を図るべきなのか、巨大地震が直近に迫っていると認識すべきなのかどうか、今のところ情報の判断の基準は明確でない。
従来の予知にもとづく対応の場合、首相が警戒宣言を出し予知情報が出ることで交通規制など地域社会全体にかかわる規制や対応が図られる仕組みになっていた。 11月以降の対応については、静岡県などをモデル地区に地域社会での対応について国、自治体で検討を進めていくようだが、現在のところ静岡県としては、調査開始の情報が出た場合は情報収集体制をとる、南海トラフ地震の発生の可能性が高まったとの情報が出た場合は県民への呼びかけや防災上必要な施設等の点検、災害応急対策の確認等の対応、または状況に応じて東海地震注意情報発表時に準じた対応を行うとしている程度だ。 静岡県は東海地震に備えて長年、国の予知情報を前提とした防災体制を構築してきたわけだが、国の防災対策の見直しに戸惑いはないのだろうか? 県危機政策課長の滝田和明氏は「東日本大震災の発生以降、県は突発型の巨大地震の可能性、想定外の津波の可能性を含めて対策を施してきました。予知情報がなくなっても県の防災対策に根本的に大きな影響を及ぼすものではありません」と説明する。 静岡県では2013年に地震・津波対策アクションプログラム2013 を策定、南海トラフ地震を想定した対策に乗り出しており、浜松市沿岸の防潮堤や焼津市沿岸の整備も県方針にもとづき地元自治体が進めている。 予知を前提とした東海地震中心の防災から南海トラフ地震の震源域全体を見据えた防災へ国が見直しを図る中、静岡県内では南海トラフ地震を想定した取り組みが先行して進んでいるといえる。 しかし、施設等の整備と合わせて情報が混乱することなく伝わり、速やかに避難等の行動に移れる態勢作りも防災対策の重要な要素だ。暫定的とはいえ、評価検討会による臨時情報が発出された場合、どのような行動をとるべきなのか、住民レベルまで含めて対応を検討することが求められる。