核・ミサイル開発続ける北朝鮮 中国が制裁に及び腰なのはなぜか?
北朝鮮が反発強めるというリスク
しかし、中国による「からめ手」は、逆に北朝鮮の反発を強める結果にもなっています。 中国からみて北朝鮮が「厄介な身内」であるのと同様、北朝鮮からみても中国は「朝鮮半島の非核化」を掲げる、油断のならない同盟国です。米朝間の緊張が高まった4月以降、トランプ政権による「米中間の貿易問題の棚上げ」の引き換えに、中国が北朝鮮からの石炭輸入を停止し、英字新聞『グローバル・タイムズ』など中国国営メディアで北朝鮮に批判的な論評が出てきたことは、平壌の危機感を強めることになりました。 その結果、5月4日付けの朝鮮労働党の機関誌『労働新聞』は、「中国は米国に踊らされている」など、異例ともいえる中国批判を展開しています。 これに対して、6月には中国の巨大国営企業、中国石油集団(CNPC)が北朝鮮への燃料輸出を停止。この燃料輸出の停止に関して、CNPCは「支払いをめぐる商業上の問題」とだけ発表しており、期間などについては不明です。また、中朝いずれの政府もコメントしていません。 とはいえ、これが少なくとも結果的に、自らへの批判を展開した北朝鮮に中国が存在感を示したことは確かです。ロイター通信は中国からのエネルギー輸出の停止により、平壌周辺でのガソリン価格が4月と比べて6月には50パーセント上昇したと伝えています。北朝鮮にとって原油は生命線ともいわれています。 ただし、仮にこの輸出停止が「忍耐が切れた」ことによる脅しだったとしても、中国がそれを長く続けるかは不明です。北朝鮮が安全保障面だけでなくエネルギー面でもロシアと急速に接近しているからです。中国にとって、冷戦期以来の同盟関係にあるロ朝の接近は予想外でないにせよ、そのスピードは目を見張るものです。
ボイス・オブ・アメリカによると、2016年に74万ドルだったロシアの対北朝鮮石油輸出額は、2017年の1~4月だけで230万ドルにまで急伸。ロシア産エネルギーの輸入の急増は、北朝鮮にとって日米などによる経済制裁への対抗手段であるだけでなく、中国の引力から逃れるための手段でもあります。一方、欧米との関係が悪化するロシアにとって、北朝鮮への影響力を増すことは、ひいては米国に対する影響力につながります。 しかし、中国からみて、ロシアはソ連時代から公式には盟友であっても、黒竜江(アムール川)の珍宝島(ダマンスキー島)の領有権をめぐる軍事衝突(1969年を含め、因縁のある「油断できない仲間」です。そのロシアが隣接する北朝鮮で影響力を伸ばすことは、中国にとって必ずしも望ましくありません。そのため、北朝鮮向けエネルギー輸出を制限し続けることは困難といえるでしょう。 以上から、中国にとって北朝鮮への制裁の強化は「痛しかゆし」の状態にあります。