核・ミサイル開発続ける北朝鮮 中国が制裁に及び腰なのはなぜか?
朝鮮戦争、そして「血の同盟」
中国が北朝鮮への制裁に積極的でない背景には、その歴史的関係や地政学的条件があります。しばしば中国と北朝鮮の間には「血の同盟」関係があるといわれますが、それは朝鮮戦争(1950-53年)にさかのぼります。 第二次世界大戦後、日本軍の撤退とともに「力の真空」が生まれた朝鮮半島では、北部にソ連の支援を受けた北朝鮮が、南部に米国の支援を受けた韓国が成立。東西冷戦のもと、1950年に北朝鮮が韓国に侵攻するや、米軍を中心とする国連軍がこれに介入。当初、押され気味だった韓国軍が国連軍とともに国境である北緯38度線を超えて進撃するなか、中国が北朝鮮を支援して介入してきたのです。 中国の支援を受け、膠着状態となったことで、1953年に双方は休戦協定に調印(終戦ではない)。中国の支援がなければ、現在の北朝鮮の体制はなかったかもしれません。 一方、中国にとっても、朝鮮戦争への介入には差し迫った事情がありました。伝統的に、中国を中心とする国際秩序である「華夷(かい)秩序」のもとで、朝鮮半島の各王朝は「宗主国」中国の「属国」という扱いでした。つまり、中国からみた朝鮮半島は自らの「勢力圏」。米国主導の国連軍が勝利し、朝鮮半島が韓国によって統一されることは、中国にとって「敵国」と隣り合わせになることを意味するため、北朝鮮を守る必要があったのです。 その結果として生まれた「血の同盟」は、少なくとも公式には、中朝関係の基盤と位置付けられてきたのです。
中国からみた北朝鮮問題のリスク
その一方で、中国にとって北朝鮮は、あまり信用できない「厄介な身内」でもあります。特に朝鮮戦争後、北朝鮮が核・ミサイル開発に強い関心を持ち始めたことは、中国にとっても安全保障上の問題となるものでした。 核兵器不拡散条約(NPT)で「合法的な核保有国」と認められる中国にとって、核保有国が増えること自体、特権を脅かすものです。それが自分の勢力圏と捉える北朝鮮なら、なおさらです。そのため、中国は北朝鮮に関して「冷静な対応」を各国に求める一方、「朝鮮半島の非核化」も求めています。 中国が北朝鮮の核武装を望まなかったことは、その開発過程からも見て取れます。中朝間では1980年代半ば、ウラン濃縮に必要な超高速遠心分離機に関する技術交流が行われていました。しかし、北朝鮮の核開発に関する情報が各国に伝わり始めていた1991年、共同研究は中断。これに関して、中国は「北朝鮮の事情」と述べるにとどめています。 核・ミサイル開発そのものだけでなく、それに起因する経済制裁で金正恩体制が崩壊することも、中国にとっては大きな懸念です。「兵糧攻め」で金正恩体制が崩壊すれば、多くの難民が中国に押し寄せるからです。 2017年3月の国連の報告書によると、北朝鮮では全人口約2490万人の約5分の2にあたる約1050万人が栄養不足の状態にあるといわれます。北朝鮮では自然災害が相次いでおり、2016年8月にも咸鏡北道(ハムギョンブクドウ)で洪水のため6万9000人が土地を追われました。 食糧危機が広がる中、軍事予算を拡大させる北朝鮮政府は国民の窮状を放置しており、経済制裁の中で西側からの人道支援も減少。しかし、国外に逃亡を図れば厳罰に処されます。このような状況のもと、金正恩体制が崩壊すれば多くの難民が発生することは明らかです。 こうしてみたとき、中国が経済制裁に慎重であり続けたことには、「朝鮮半島の非核化を中国のペースで進めること」と「中国にとってダメージの大きい金正恩体制の崩壊を防ぐこと」の両方の目的があったといえます。 中国にとって「朝鮮半島の非核化」は望ましいのもですが、大規模な戦闘や金正恩体制の転覆など、大きな変動をもたらしかねない米国主導のハードランディング(硬着陸)によって多くの難民が発生するのも避けたいところ。この観点から、中国が経済制裁に消極的なことには、自らが主導権をとり、「金正恩体制の維持」と「朝鮮半島の非核化」を両立させるソフトランディング(軟着陸)のために、北朝鮮を自分の引力圏に引き込むものだったといえます。