笠置シヅ子?美空ひばり? 日本の“元祖アイドル”は果たして誰なのか。南沙織以前のアイドルに迫る
アイドルとは崇拝される偶像
【アイドル】 1・偶像。 2・崇拝される人や物。 3・あこがれの的。熱狂的なファンをもつ人。「アイドル歌手」 (デジタル大辞泉より) 【華やか!】長澤、綾瀬、石田ゆり子… あの女優の「ステキすぎる外出私服」 果たして「アイドル」とは何なのか。 これまで’71年デビューの南沙織・天地真理らを起点として、50余年におよぶ現代アイドル史を駆け足でおさらいしてきたが、「アイドル」と呼ばれる存在は、それ以前より存在する。 たとえば’63年公開のシルヴィ・ヴァルタン主演のフランス映画、そのタイトルはズバリ『アイドルを探せ(Cherchez l’idole)』だった。シルヴィ・ヴァルタンをはじめ、ミレーヌ・ドモンジョ、シャルル・アズナブールといった当時フランスで人気だった歌手や女優が本人役で出演、シルヴィ・ヴァルタンが歌った同名曲もヒットした(日本でも’65年に中尾ミエやザ・ピーナッツにカバーされている)。 さらにさかのぼると、『虹の彼方に(Over The Rainbow)』が有名な’39年公開のミュージカル映画『オズの魔法使(The Wizard of Oz)』で主人公のドロシー役をつとめたジュディ・ガーランドがアイドル的人気を集めた存在の起源であるともされている。 「アイドル/Idol」とは、もともと偶像を意味する言葉だ。宗教的に崇拝する偶像は、時に身近な存在に置き換えられることもある。その崇拝する気持ちと近年の若い歌手や俳優などの活躍を見たり応援したりすることで得られるポジティブな感覚はいつしか重なり合い、高い熱量で「推す/推される」存在は、実在する偶像≒アイドルと呼ばれ定着していった。 ◆出兵する兵士に笑顔や勇気を与えた元祖アイドル・明日待子 連載第1回で述べた南沙織の登場からさらに時間をさかのぼる。 戦前の日本に“元祖アイドル”と呼ばれることもある女性が存在し、多くのファンを熱狂させていた。 明日待子。かつて新宿にあった劇場「ムーラン・ルージュ新宿座」で活躍した歌手である。’22年にはその活躍ぶりを描いた古川琴音主演のNHKドラマ『アイドル』が制作・放送され、好評を得たことを記憶する人も少なくないだろう。ムーラン・ルージュの看板女優として歌い踊る姿が人気を集め、カルピスやライオン歯磨のポスターにも起用されるなど、まさに“アイドル的存在”として活躍した。 劇場(ムーラン・ルージュ)に行けば会えるーー明日待子は元祖的存在にして「会いに行けるアイドル」でもあった。ドラマでも描かれていたが、待子の存在は、当時の若い兵士にとって元気や勇気をもたらしてくれる存在であり、出征する兵士たちがステージを観覧し、「明日待子万歳!」と声をあげ、待子はステージから「ご武運長久をお祈り致します」とやさしく声をかけた。その関係性は、現在まで続くアイドルシーンの空気と何ら変わりない。