笠置シヅ子?美空ひばり? 日本の“元祖アイドル”は果たして誰なのか。南沙織以前のアイドルに迫る
アイドルの本質は人類の文化とともに
ところで明治時代に言文一致体の小説を確立させたとされ、1887年から90年にかけて連載された二葉亭四迷の『浮雲』には、こんなくだりが登場する。 <どんな美しいのを視たっても気移りはしない。我輩には「アイドル」(本尊)が一人有るから> !!!!! アイドルという記述ばかりでなく、(本尊)とあることで、崇拝の対象として使われていることがわかる。これは今に通ずる「アイドル」の本質、現代のアイドルファンとなんら変わりないアイドルを“推す”心理そのものではないだろうか。明日待子やジュディ・ガーランドの登場よりもはるか前、明治時代に書かれた小説に、すでにアイドルは登場していた。 壮大すぎる話になるが、本来の偶像としての憧れとしては、アイドルとはそれこそ人類の文化の歴史とともに歩んできた存在なのかもしれない。 ステージ上のアイドルの名前を呼んだりペンライトを振ったり、さらには近年のライブアイドル・地下アイドルのファンたちの間で生まれた「タイガー! ファイヤー!」といった単語を揃って絶叫するコールや「ヲタ芸」と呼ばれる独特な動きなども、見ようによってはある種の「祝祭」「儀式」のようであるかもしれない。 ’23年の大晦日、『NHK紅白歌合戦』でのYOASOBIがアイドル枠での出場者たちとともに、それぞれの魅力を引き出したうえでひとつにまとまるかたちで構成した『アイドル』のパフォーマンス。その華やかなパフォーマンスを通して、アイドルという存在はいまや国や時代、世代、性別などの垣根を超えたものであるということをかたちとして提示され、その説得力は大きな話題を集めた。 アイドルを応援するという思いは「推す/推し」という言葉によってすっかり市民権を得た。50年、あるいは100年におよぶ日本のアイドル史は、その本質が変わらない限り、新たな信仰対象・アイドルがこの先も生まれ、歴史を刻んでいくだろう。 文:太田サトル ライター・編集・インタビュアー。学生時代よりライター活動を開始、現在はウェブや雑誌などで主にエンタメ系記事やインタビューなどを執筆。
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