映画「動物界」が描く“人間が動物に突然変異してしまう世界” 「自分と違う他者との共生を認めるかどうか」
世界中で人間が動物に突然変異する奇病が蔓延する近未来。エミール(ポール・キルシェ)の母も病にかかり“新生物”として隔離される。だが移送中の事故で母が行方不明に。さらに父(ロマン・デュリス)と母を探すエミールの体にも異変が──!? 社会問題とスリラーを融合させた話題作「動物界」。脚本も務めたトマ・カイエ監督に本作の見どころを聞いた。 【写真】この映画の写真をもっと見る * * * 2019年に母校から学生の卒業制作の審査を頼まれて、ポリーヌ・ミュニエのオリジナル脚本に出合いました。人間が動物に突然変異してしまう世界、という設定にとても興味を持ったんです。映画化を提案し、ポリーヌと一緒に脚本を書き始めた1カ月後に新型コロナウイルスが猛威を振るいはじめ、設定にさらなるリアリティーが生まれたと感じています。 もともと私が惹かれたのは「変異」というテーマでした。自分と違う他者=変異と社会の中でどのように共生していくのか、という視点です。いまヨーロッパでは極右の進出と浸透で社会全体に不寛容が満ち、殻に閉じこもり他者を受け入れない傾向があります。さらには環境の「変異」という問題です。地球温暖化の危険を認識しながら、しかし誰も行動を起こさない。これらふたつの大きな社会問題をテーマに詩情をたたえたメタファーとして本作を描きました。 単なるパニックスリラー映画にしないためにリアリズムを大切にしました。動物に変異した体をCGで描くのではなく、俳優の体に特殊効果メイクを施したのです。これによって新生物となった人間のリアルな苦しみなどを表現できたと思います。さらに、物語の中心に父と子の関係を据えました。父が息子に何を伝えるか。子は親から何を学び、どう自立していくのか。これは家族の物語であり、子どもがどのように大人になっていくのかの物語でもあるのです。 フランスでは本作を「心の病」という視点で解釈する人もいて興味深かったです。本作の解釈はエンディングも含めて、観る人に委ねられています。自分と違う他者との共生を認めるかどうか。いかにそれをするか。そこに希望を見いだせるか──。観る人個々の判断に関わってくるのだと思います。 (取材/文・中村千晶) ※AERA 2024年11月11日号
中村千晶