日本一のキャプテン 横浜DeNAベイスターズ・牧秀悟 自問自答で見つけた答え “素の自分で勝負すること”
2024年のプロ野球は、DeNAがリーグ3位から日本一を成し遂げる下剋上で幕を閉じた。 1998年以来26年ぶりの日本一は、この男抜きには語れない。今季からキャプテンに就任した4年目の牧秀悟(26)。その1年をリアライブは追いかけた。 クライマックスシリーズ・ファーストステージ初戦を3日後に控えた10月9日、牧は行きつけの美容室にいた。 節目には必ず訪れる。母・寿奈美さんが長野県中野市で美容院を営んでいることもあり、決戦前には身だしなみを整えるのがこの男の流儀。注文はいたってシンプルだ。 「こだわりですか?横バッサリ。ミリとかじゃないですね。肌。行けるところまで」 髪を切り、気合を入れて臨んだ大舞台で、悲願の瞬間を迎えた。DeNA、26年ぶりの日本一。歓喜の輪の中心にキャプテンマークをつけた牧がいた。 レギュラーシーズンは4年連続で本塁打20本以上となる23本、打点もチームトップの74をマークしたが、最多打点、最多安打のタイトルを獲得した昨年には及ばない数字に終わった。 新たに与えられた役割“キャプテン”としての在り方に、想いを巡らせるシーズンだった。 シーズン開幕直前、同世代の山本祐大捕手(26=今季正捕手の座を獲得しブレーク)と食事に行った時、「だいぶ慣れた?キャプテン生活」と問われた牧は、戸惑う気持ちを打ち明けている。 「まだだね。でもまあ、最初よりはね。何かこう、何をする訳じゃないけど、ちょっとずつだね。でもね、いやなプレッシャーはある。打席内でも。何か変な感じがする。打てない時は何か変な感じがする。ベンチも普通なんだけど、自分が勝手に“うわあ、凡退した”みたいな。何かある」 プロ入り1年目から開幕スタメンの座をつかみ取り、史上4人目のルーキーでの打率3割、20本塁打を達成すると、昨年は打点王、最多安打のタイトルを獲得。 侍ジャパンにも名を連ね、WBCの舞台でホームランを放つなど順風満帆のプロ生活を送ってきた牧だが、“キャプテン”を消化しきれない日々が続いた。 「とにかくプレー、練習姿でチーム全員を引っ張っていければ、と思います」と“背中で引っ張るキャプテン”を標榜して臨んだシーズン。キャプテンの名に恥じないよう、例年以上にバットを振り込んできた。しかし、描いた理想とは違う現実が待っていた。 一時、打率は2割5分まで落ち込み、定位置だった4番の座もはく奪された。「キャプテンなのにこれでいいのか」。その責任感が、牧を深みへと落とし込んでいった。 「自分は今まで通りやればいいかなと思っていたんですけど、やっぱり試合が始まって勝ち負けがついてくると、今までないくらいの圧じゃないですけど、そういうのを勝手に自分でも感じちゃっていたので。チームとしても個人としても、全然うまくいってなかったので、何が正解なのかと思いながらやってましたね」 もがき苦しむ日々。この状況から救い出してくれたのは宮崎、伊藤光らベテランの言葉だった。 誰もが「自分らしくやればいいんだよ」と言ってくれた。「そう言ってくれたことが心のよりどころというか、すごく助かった部分は大きいかと思います」と牧は感謝の言葉を口にする。 牧は自問自答し、「自分らしさ」を再確認した。結論は“チームを盛り上げるために、その先頭に立つこと。背中で引っ張る格好つけた自分を演じなくていい。素の自分で勝負すること”だ。 キャプテンに指名した三浦監督は、牧の凄さを打席以外のところに見出していたことをこう明かす。 「1年目に牧を見た時本当にすごいなと思ったのが、打席で凡打して帰ってきても次の打者をベンチで鼓舞している。これって、なかなかできないことだと思うんですよね。グッとこらえて次の打席に向ける。次のプレーに向ける。やっぱり牧はすごいな、と入団時から感じていました」。 だからこそのキャプテン指名。「自分らしさ」を取り戻した牧は、円陣の声出しも積極的に行い、凡打して戻ってもチームメートを鼓舞し続けた。いつもの牧がそこにいた。 そして、もう一つ。バットではある数字に重きを置くことにした。 「打点ですね。打点をあげれば球場も盛り上がりますし、それこそベンチがすごく盛り上がる。そういうチームなので、塁上から見ていてもいいなと思う瞬間だから、そこにはこだわっていきたい、と思いますね」。 キャプテンの呪縛に苦しんだ男は、進化した姿を大舞台で見せつける。 クライマックスシリーズ・ファイナルステージ第6戦。勝者が日本シリーズに進出する大一番で、牧にチャンスが巡ってくる。2-2の同点で迎えた9回表2死三塁の場面で、巨人菅野のカットボールをしぶとく左前に運びこれが決勝点となった。 「食らいついて、どの球を打ったか覚えてないくらい。一塁を駆け抜けてベンチを見たらみんなが立って声を出してくれていたので、それを見られただけですごく幸せ者だと思いました」 キャプテンがもたらした勢いは、日本シリーズの舞台でも続くことになる。本拠地で連敗スタートの後、敵地で連勝して迎えた第5戦。 4回に貴重な3ランを放って王手をかけると、そのまま4連勝で日本一へと駆け上がった。ただ、“キャプテン”としての牧に満足感はない。 「1年やっただけではなかなか出来ませんでしたし、まだまだキャプテンとしての勉強不足だったりもあるので。キャプテンはマークだけじゃなくて、行動だったり言葉だったりというのはすごく大事になるポジションだと感じましたね。本当にいい経験ができて、悪い部分も多かったのでどんどん次に生かしていきたいなと思います」 牧秀悟の「キャプテン道修行」はまだ終わりそうにない。 テレ東リアライブ編集部