北朝鮮の「制圧放送」の騒音に苦しむ江華島住民…韓国軍「拡声器放送は続ける」
韓国軍の北朝鮮向け拡声器放送に対抗するため、北朝鮮が拡声器で金属を切るような騒音を流し、北朝鮮に近い江華島(カンファド、仁川江華郡)の住民たちが被害を訴えている。 合同参謀本部は12日、「北朝鮮軍が対北朝鮮拡声器放送に対応し、7月末から前方地域で未詳の騒音を送出している」と述べた。合同参謀関係者は「北朝鮮が境界地域の全地域で拡声器による騒音を送出しているが、北朝鮮と近い西海(ソヘ)の江華島では大音量で聞こえるという」と語った。 江華島の住民たちは国防部などに騒音被害を訴えているが、韓国軍当局は北朝鮮向け拡声器放送を中断または縮小する計画はないという。 江華郡は北朝鮮との直線距離が、江華平和展望台が1.8キロメートル、橋桐島(キョドンド)が2.5キロメートルと近いうえ、北までの間が海であり中間に障害物がなく騒音が民間地域まで聞こえてくる。一方、京畿道や江原道など内陸の境界地域は山岳地形であり、特に夏には木々が茂り、音が遮られる。また、この地域は軍事境界線(休戦ライン)から最大20キロメートル以南までが民間人統制線で、対南拡声器の騒音が民間地域まではよく聞こえない。 韓国軍当局は北朝鮮の汚物風船散布に対応し、7月21日から西部・中部・東部戦線で心理戦手段の北朝鮮向け拡声器放送を全面稼動している。その後、北朝鮮は北朝鮮軍と住民が韓国軍の拡声器放送を聞けないよう妨害する目的で、韓国向け拡声器を設置し「ジジジジ」という騒音を出している。最近は騒音がさらに大きくなったという。江華郡で測定した韓国向け放送の騒音は、地下鉄の騒音とほぼ同じレベルの80デシベル。住民たちは対策作りを要求しているが、これといった方法はないという。 北朝鮮の韓国向け拡声器放送は、韓国の北朝鮮向け拡声器放送を最前線の北朝鮮軍人が聴けないようにするための出力・電波妨害中心の「制圧放送」だ。制圧放送は北朝鮮向け放送の内容を遮断することに目的があるため、特定の内容やメッセージを流すのではなく、拡声器の出力を最大にして北朝鮮向け放送をかき消す騒音を発生させる対抗策として使われる。北朝鮮向け放送と韓国向け制圧放送の音が混ざると、北朝鮮地域では騒音だけが聞こえるようになる効果を狙ったものだ。 軍当局は、江華島の住民の騒音被害にもかかわらず、汚物風船の散布中止など北朝鮮の変化がない限り、北朝鮮向け拡声器放送を続ける方針だ。軍関係者は「北朝鮮向け心理戦放送は長期間にわたり続けてこそ効果が期待できるため、7月21日に始まった北朝鮮向け放送を控えることは考えられない」と語った。今年5月から、一部の脱北民団体による北朝鮮へのビラ散布→北朝鮮当局による汚物風船飛ばし→軍当局による北朝鮮向け拡声器放送の再開→北朝鮮による韓国向け拡声器騒音放送で、4カ月連続で南北が対抗しあい、対立がエスカレートしている。 1962年、北朝鮮が西部戦線で韓国向け拡声器放送を始めると、韓国も1963年に心理戦の一環として北朝鮮向け拡声器放送を始めた。1972年の7・4南北共同声明以後中断した南北双方の拡声器放送は、1980年に再開された。2004年6月の南北合意で再び放送を中断したが、2015年の非武装地帯の木箱地雷爆発事件で北朝鮮向け放送が一時再開。2018年4月の板門店宣言で南北は拡声器放送を中断したが、今年に入って再び双方が放送を始めた。 北朝鮮は1980年代まで、「米帝植民地の南側(韓国)で苦労せず、社会主義に基づく地上の楽園である北朝鮮に来い」と呼びかけるなど、攻勢的な韓国向け拡声器放送を行った。ところが、1990年代半ば以降、経済難と食糧難で北朝鮮の状況が非常に厳しくなったことで、攻勢的だった北朝鮮の対南拡声器放送が制圧放送などの形で消極的かつ防御的なものへと変わった。 クォン・ヒョクチョル記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )