1週間で文学賞をトリプル受賞、直木賞候補の注目作家が“漫画原作”として挑むミステリー×アクションの新境地「セリフの量のバランスが難しい…」
高校生までは漫画家を目指していた
――そもそも、青崎先生が漫画の原作を引き受けたのはなぜですか? 実は、漫画原作の声をかけていただいたのもミス研のつながりがあってこそで。 ――そうなんですか!?︎ 今の担当編集さんが某大学のミス研にいたとき、文化祭の講演の登壇者として僕を呼んでくれたことがあったんです。そのつながりからときを経て、「いまヤンジャン編集部で働いてるんですが、何かやりませんか」とオファーをくださったんです。 ――すでに小説家として活躍されている中で、別の世界に飛び込むのは勇気と体力のいることだと思いますが… 「え、いいんですか。やりたいです」と二つ返事くらいの勢いでしたよ。そもそも、高校生くらいまで漫画家を目指していた、というのが大きいですかね。絵が上達しなくて結局挫折したのですが。 ――漫画の原作者さんは、シナリオを書く、あるいはネームまで切る、と人によって担当領域が異なると思いますが、青崎先生はどんなスタイルを? テキストでシナリオをお渡ししています。ただ、小説のような形でもト書き風でもなくて。1話ごとに、1コマ目にはキャラAの顔があって「○○○」というセリフ、2コマ目は「○○○」というセリフとキャラBが走り去る描写、3コマ目は…という感じで、コマ単位で書いています。 実際にネームに起こす際のコマ割りや構図などは、作画担当の松原(利光)先生にお任せしています。 ――かなり細かく指定をされているんですね。 試行錯誤はしたのですが、“ネームを切ったときにちょうど1話分に収まるシナリオの量”を見極めるのが大変で。今のところはコマ単位で指定したほうがむしろ楽かなと。コマ数から逆算すると、必要なシナリオの量の目安もわかってきますから。 ――では続いて、小説と漫画とで作り方や考え方の違いがあれば教えてください。 まったく違いますね。連載前に群青ピズ先生と組んで『アップサイド・ダウンタウン』という読切の原作を作ったのですが、最初に痛感したのはセリフ量のコントロールの難しさでした。小説の感覚で漫画のシナリオを書くと、そもそもページ数に入り切らないし、入ったとしても詰め込みすぎてあまりおもしろくなりません。 ――ミステリーというジャンルでは特にですよね。 はい。推理をしたり、事件の情報を提示したり、という流れが必須ですから。ひねった内容にすればするほどテキスト量も増えていくし、バランスがすごく難しいな、と。 そこで、まずはセリフをどう削るかを考えました。当然ですけど、ただ削るばかりだと話がスカスカになってしまうので、わかりやすさと印象的なセリフを残したまま、どう要約しようかと。 ――まったく別の筋肉を使う必要があるのですね。ほかにも違いはありますか? キャラクターの見せ方ですね。「漫画はキャラが命」というのは頭ではわかっていたつもりですが、心理描写よりも行動で魅力を出さないといけないので、やはり小説とは違う。「話の中心にキャラを置け」と今でも担当さんから注意されています。プロの漫画家さんからすると、「何をそんな当たり前のことを」と言われるかもしれませんけど…。