10歳のとき、命を懸けた「冷たい社会への復讐」を誓った...泉房穂氏が語る、成功を導く「力の源泉」
可能性への信頼が力につながる
──それはビジネスパーソンにも役立つ観点ですね。新しいベンチャーを始めるときは特に、世界中の事例を参考にしていいとこ取りをしていくことはよくありますから。 どこかのエリアで一定の成功を収めているものには、ヒントがたくさんありますね。 それと、もう1つ私が意識しているのは、市民、現場の声を聴くこと。コロナ禍では、国の動きをよそに、とにかく街を歩きました。本当に悲鳴のような声をたくさん聞きました。 たとえば、学費を払えなくなった大学生が「コロナ中退」になってしまうという声があったので、明石市が立て替える施策を考えました。最初は50万円を上限とした大学生への学費支援からスタートしましたが、これは失敗しました。50万円では足りなかったんです。すぐに60万円に上げました。理系大学ではそれでも足りなかったので、100万円に変えた。そして、大学生限定だった対象を、専門学校生や大学院生にも広げています。 最初にやったことがハズレた場合は、施策側に市民を従わせるのではなく、現場のニーズに合わせて施策を変える。ニーズとずれたときは、こちらが「ごめんなさい」をします。国はこれが意外とできない。一旦決めたことは「自分たちは間違えていない」という態度になりがちです。それでは失敗してしまう。現場の声を基礎に据えるべきなんです。これはビジネスでも同じでしょう。 ──これからの日本を支えていく若者に何かメッセージはありますか。かれらは生まれたときからデフレ経済で、政治の投票率も思い切り低かった。そうなると、「何をしても結局変わらないよね」というあきらめ感、閉塞感のなかで育ってきたと思います。そういうみなさんが「これなら変えられる」と勇気づけられるようなことばがあれば、ぜひ伺いたいです。 自身の人生を生きる主人公として、どのように生きるかはみなさん次第ですが、少なくとも、時代を言い訳にするのはもったいないと思います。私は「いまの時代は夜明け前だ」といつも言っているんです。夜明け前が最も暗くて寒いけれど、あとは夜明けを迎えるだけ。もうしばらく暗いかもしれませんが、いずれ朝は来ます。そう前向きに捉えて発想を展開していけば、可能性も広がっていくものです。 私は前向きすぎる人間なので、朝起きただけで幸せを感じるんです。「朝だ! 生きてる!」って。この自分を使って今日一日何をしよう。そうして、自分のなかの可能性を信じているんですね。 ──グロービスの代表(堀義人さん)も「可能性を信じる」ということばをいつも語っています。グロービスは彼が20代後半~30代の時期につくった組織ですから。やればできるということは私も強く思います。 まったく同感です。そのことばに補足するなら、「やればできる」だけでは足りなくて、「どうすればできるか」まで考えないといけません。何かを成すなら、願望レベルで止まらず、どういった道を行くのか、何がいるのかきちんと逆算して決断していく。目標が達成できないのは、「こうなればいいな」という抽象的な地点で終わっているから。その違いはとても大きいと思います。 ──泉さんは、そうして人生ひと段落ついたということですが、これから先の3、40年で取り組んでいきたいことはありますでしょうか。 今後は、横展開、縦展開、未来展開という3つの展開を考えて発信していきたいです。 まず横展開は、「明石でできた政策はほかの街でもできますよ」ということです。私のやり方を政策面でも選挙面でもほかの地域に応用していって、実現可能であることを証明していきます。 縦展開は、「明石でできたことは国ではもっと簡単にできますよ」ということです。国のほうがお金も使えるし、方法にも広がりがありますから。国民と向き合った政策をとるよう、国を促していきたいです。 最後の未来展開は、私が10歳で将来を誓ったように、いまの子どもたちにも「社会は変えていけるんだ」という実感が持てるようなメッセージを、しっかり伝えていくことです。 この『社会の変え方』は、社会は変えられる、あきらめるなというメッセージを込めた点で、この3つの展開すべてが関係しています。若い世代がこれからを考えるためのヒントにも、ビジネスの世界でがんばっている方の励ましにもなっている本なので、ぜひお読みいただけるとうれしいです。 <泉房穂(いずみ ふさほ)> 1963年、兵庫県明石市生まれ。東京大学教育学部卒業。NHKディレクター、弁護士を経て、2003年に衆議院議員となり、犯罪被害者等基本法や高齢者虐待防止法などの立法化を担当。2011年に明石市長に就任。特に少子化対策に力を入れた街づくりを行う。2023年4月、任期満了に伴い退任。主な著書に『社会の変え方』(ライツ社)、『子どものまちのつくり方』(明石書店)ほか。 <flier編集部> 本の要約サービス「flier(フライヤー)」は、「書店に並ぶ本の数が多すぎて、何を読めば良いか分からない」「立ち読みをしたり、書評を読んだりしただけでは、どんな内容の本なのか十分につかめない」というビジネスパーソンの悩みに答え、ビジネス書の新刊や話題のベストセラー、名著の要約を1冊10分で読める形で提供しているサービスです。 通勤時や休憩時間といったスキマ時間を有効活用し、効率良くビジネスのヒントやスキル、教養を身につけたいビジネスパーソンに利用されており、社員教育の一環として法人契約する企業も増えています。 このほか、オンライン読書コミュニティ「flier book labo」の運営など、フライヤーはビジネスパーソンの学びを応援しています。