コーチ不在 川内の限界
だが、普段のレース以上に緊張感を感じ、背負うものも多くなる世界大会となれば状況も変わる。ただ単に肉体を酷使して練習するだけではなく、戦略や情報収集。さらにはいかに気持ちに余裕を持って作り上げていくかなどと、様々な要素が必要になってくる。それを川内ひとりで賄うとなれば、その消耗度は大きなものになるだろうし、賄いきれない部分が出てくるのも仕方ないことだ。その点では彼が、ハンディを背負って挑戦しているともいえるのだ。 彼自身「市民ランナーとしてサブテン(2時間10分以内で走ること)を達成したい」という思いで走り続け、低迷していた日本男子マラソンに大きな刺激を与える結果を出してきた。だが単なる“強い市民ランナー”という枠を逸脱し、現在のように“強い選手のひとり”として世界に挑戦するとなれば様々なサポートも必要になってくる。 「冬の選考レースだけ強くても、重要な夏のレースで戦えないなら意味がない」という彼は、来年のアジア大会の結果を見て今後リオデジャネイロ五輪に挑戦するかどうかを決めるとまで発言した。 だが2時間8分台前半のタイムを複数回出して優勝経験も多い彼が、日本では最強の部類に入る選手であることは間違いない。自分の手法を持つことは極めて大切なことではあるが、夏マラソンへの対策も含 めて外部のサポートを受けることも、川内優輝というランナーがこれからもう一段強くなるためには必要なことだろう。 (分責・折山淑美 /スポーツライター)