浅野ゆう子さん「撮り直しをしないのが、私の勝負の仕方」|仕事と美容、そして人生。
“少しの背伸び”が呼ぶ転機
失恋や新生活のスタートなどで気持ちを新たにするために、髪を切る方がいますよね。私の場合はくせ毛のせいで髪を切ることができなかったため(笑)、代わりにメイクが変わっていきました。20代半ばで芝居の世界で生きていこうと覚悟が決まると、それまでの濃いメイクからナチュラルなメイクに。メイクで盛るより、俳優としても、ひとりの女性としても、素の自分らしさを大事にしようと思ったのです。「メイクをすると老けるね」と言われたことも理由ですが(笑)。 【写真】この記事で紹介した、浅野ゆう子さんのアナザーショットはこちらからチェック! スキンケアは、30代に入ってすぐの頃、大先輩の故・野際陽子さんにプレゼントしていただいたのをきっかけに、ゲランのスキンケアをラインで使い始めました。30歳そこそこでゲランだなんて、ちょっと生意気ですよね。少し背伸びして大人のブランドを使うことで、少しずつ自分を成長させていきたかったのかもしれません。スキンケアは同じものを使い続けない方がいいと聞くので、今はゲランをはじめ、好きなブランドをいくつか使い分けています。 そんな日々で出合い、私の俳優人生の中でも大きな転機となった作品が、33歳のときに公開となった映画『藏』です。原作は宮尾登美子さんの文芸大作。大正から昭和初期にかけて、蔵元の跡取り娘でありながら、病で盲目となった少女・烈とその家族の過酷な運命と絆を描いた物語です。私は病弱な母親に変わり、烈を献身的に育てる叔母・佐穂を演じました。 実は、最初にオファーをいただいたときはお断りしました。芝居は実生活で経験がなくとも想像で演じるものですが、演者の人生が表れる怖いものでもあります。それは取り繕うことができない。当時、母性の器もない私には献身的な愛や包容力のある役、人間的にも深みを増した芝居をすることへの自信がありませんでした。それでも再度熱心に依頼をいただき、プロデューサーでもあった共演の故・松方弘樹さんから「絶対できる!」と言っていただき覚悟を決めました。結果、日本アカデミー賞の最優秀主演女優賞をいただき、役幅が広がった気がします。 自信がないという臆病な気持ちで挑戦を諦めていたら、今の私はなかったかもしれません。周囲に背中を押してもらって一歩を踏み出せたからこそ、今もお仕事をさせていただけている。20代、30代で仕事で迷うときは、少し大変だなと思う方を選んでみることも、その先につながるような気がします。 ところで、私は40代になる前から映像でもスチールでも、撮影のときにモニターで自分の映る姿を確認していません。見て、気になるところがあれば、「撮り直したい」と言えるかもしれません。けれど、お芝居も映り方も気にし始めるときりがないし、やり直す度に自然な表現ではなくなります。何度もやり直せば、いつかは自分にとって納得いくものができるのは当たり前。けれど、撮り直しを希望するのはプロとして勝負できていない気がするのです。作品はひとりで作っているわけではないですし、集中して役を生き、演出家や監督がOKを出してくださったところが私のゴール。それが、私のお芝居でのひとつの勝負の仕方です。
Beauty Tips
スキンケアは肌の状態や気分で使い分けています。今は、ラ・メール、ザ マイトル、N オーガニック。ラ・メールとザ マイトルは洗顔後、最初に使う美容液の吸収力が良く、気に入っています。 Profile 浅野ゆう子 あさの・ゆうこ/ 1960 年兵庫県神戸市生まれ。’74 年にデビュー。劇団SET 創立45 周年記念公演『ニッポン狂騒時代』神戸公演(11月8~10日、AiiA2.5Theater Kobe)にスペシャルゲストで出演。