オレンジ色のエプロンを着け、にこやかに接客する松永さん（左）＝長崎市、イオン東長崎ショッピングセンター

　「世界アルツハイマーデー（認知症の日）」の２１日、症状や対応方法などについて広く知ってもらうイベント「おれんじカフェ」（長崎市東長崎地域包括支援センター主催）が、同市田中町の商業施設「イオン東長崎ショッピングセンター」であった。当事者が店員となり接客を担当するこの日限りのカフェの様子を取材した。 　「９０歳のウエートレスよ」。オレンジ色のエプロン姿の松永眞多子さん（８５）から笑みがこぼれた。店員４人はいずれも認知症や軽度認知障害の当事者で、注文取りや飲み物の用意などを担当した。 　７年前、認知症と診断された松永さんは日替わりで年齢の認識が変わってしまう。楽しそうに仕事をこなしていたが、休憩を挟むと記憶がリセットされたようで「初めてだからドキドキする」とぽつり。その姿に家族が言った。「認知症って、こういうことなんです」 　店内は長崎総合科学大の学生ボランティアが、トランプや時計などをモチーフに飾り付けた。事前学習で、認知症の当事者は時間や場所が分からなくなり「不思議の国」に迷い込む感覚に陥ることを知り、着想した。 　ゲーム形式でひとり歩きの認知症役を探す訓練もあった。手がかりは服装や持ち物、背格好の他「名前が言える」「住所は言えない」などの特徴。参加者は商業施設内を探し回った。 　友人と参加した海星高２年の古瀬まひろさん（１６）は認知症役の前を一度通り過ぎた。「服装が似てるけど…」。会話の糸口が見つからない姿にサポート役が助け舟。「お買い物で来られたのですか」などと、怖がらせず、安心させる声かけをアドバイスされ、安全に対象者を誘導することができた。 　「知らない人に話しかけられたら怖いですよね」。古瀬さんは認知症だった祖父がふらりと外出し、心配と驚きできつい言い方をしてしまったことを思い出した。「知識があれば適切な対応ができたし、進行を食い止められたかも」。そんな思いで学習テーマに認知症を選び、学びを深めているという。 　カフェは全７テーブルが常時埋まるほどのにぎわいで約１００人が来店。市内に住む７０代女性は「注文の間違いはあったけど、自分も物忘ればかりだし、認知症との境目は分からない」と感想を口にした。