「現代人の不安」の根底にある「つながりのなさ」 「私」ばかりで「私たち」という視点に欠ける社会
僕は、こういったことを、「私」ではなく、「私たち」という目線で改善していかなければいけないと思っています。 今の制度やシステムは、個人間の関係をすべて断ち切って、「あなたは、個人としてこんなに不安な将来を抱えています。だから制度にすがりなさい」と言ってくる。これは、ビジネスのやり方です。 ■地域特有の身体文化に目を向けよ 今の都市は、男性の目線で作られていて、子供や女性の目線では作られていません。東京なんかは、箱型のビルばかりです。それは、機能を重視して、都市というものを作っているからでしょう。
しかし、地方へ足を運べば、そこには機能ではなく、美しさを重視した風景が広がっていますし、そのような家もあります。そういう場所に一時的でも居住するということは、人間の幸福にとって重要なことかもしれません。 僕は、150人までの規模の人々は、言葉よりも、音楽的なコミュニケーションでつながっていると考えています。 お祭りがよい例です。地域特有の音楽が流れると、みんな同じように体が動きます。対面して同調するさまざまな所作によって、その地域のマナーやエチケットが身体に染みつき、身体文化として、そのコミュニティに適応していく。
そこに言葉は存在しなくてもいい。人々は、そういうところで、繋がってきたのではないでしょうか。 言葉は裏切りますし、人々に不安や疑いを抱かせます。しかし、身体は正直で、疑いを抱かせません。 今の子供たちは、オンライン授業などによって、身体で付き合う技法をきちんと学んでいない可能性があります。「非認知コミュニケーション」と呼ばれる、答えのない、でも受け止めなければならないものは、人間社会にはたくさんあります。それをしっかり覚えなければなりません。
(つづく) (構成:泉美木蘭)
山極 壽一 :総合地球環境学研究所所長、霊長類学者