古今東西 かしゆか商店【泥染め】
日常を少し贅沢にするもの。日本の風土が感じられるもの。そんな手仕事を探して全国を巡り続ける、店主・かしゆか。今回訪ねたのは鹿児島県奄美大島。伝統的な着物・大島紬の糸を染める、この島独自の技法「泥染め」と出会いました。 【フォトギャラリーを見る】 透明度の高い真っ青な海で知られる鹿児島県の奄美大島に、世界でもこの島だけにしかない染色があることを知りました。奄美の伝統工芸として有名な大島紬の、糸や絣を染める技術「泥染め」です。
「島に自生する樹木・車輪梅を煮出した染料と、天然の泥田の泥で染め上げます。150万年前の古代地層のミネラルが溶け出した泥田には、良質な鉄分が含まれている。その鉄分と、車輪梅の染料に含まれるタンニン酸が化学反応を起こし、黒い染めができるんです」 と教えてくださったのは、島北部の龍郷町にある〈金井工芸〉2代目の金井志人さん。大島紬の糸などの泥染めをはじめ、藍染めや植物染めも行っている染色人です。
この日はまず、生地の染料染めを見学しました。山で伐採した車輪梅を砕いて2日間煮出した染液は、薄い赤褐色で酸っぱい匂い。最初は酸の強い原液で染め、次に石灰を足して中和した染液で染める、という工程を、20回ほど繰り返します。生地の空気を押し出すように染液を揉み込んでいく、その手加減や職人さんの個性によって仕上がりも全く変わるそうです。
次に、薄赤く染まった生地を持って、工房の裏にある天然の染め場、泥田へ。ざぶんと生地を浸して泥をすり込むと、赤みが消えて黒色に変わります。泥田では、小さなメダカやヤゴの抜け殻も発見。小学生の頃、学校の池で小さな生き物を見るのが大好きだったことを思い出しました。
「この泥は人間には作れない。泥田に棲むイモリやカエルの土地を借りて染めさせてもらっている感覚です。染めの技法自体は他の地域にもありますが、泥染めは、奄美の気候や植生、土壌などの自然があるからできることなんです」 染めたものは山の清流で洗います。染料も泥も自然のものだから、川に流しても良いんですね。これらの工程を繰り返すことで、さまざまな色がレイヤーになった「古来の黒」になるのだそうです。