『ソウ X』殺人鬼の深淵をのぞく人間ドラマに目を背けるな! ケヴィン・グルタート監督インタビュー
『ソウ2』といえば、前作でゲームの被験者で生き残り、ジョンに心酔したアマンダが協力者となり、ジグソウの後継者となろうとする。今作も彼女が登場。ゲーム被験者を誘拐する際、シリーズお馴染みの豚のマスクをした人物がスクリーンに映し出されたとき、ファンならば「来た!」と小躍りするだろう。 「もちろん、ファンサービスは心得てるよ」 そう微笑んでくれたグルタート監督は、過去シリーズ作品の秘話も語ってくれた。 「アマンダが『ソウ3』で受け取ったジョンからの手紙について、実は当時、内容について誰も考えてなかったんだ。『ソウ6』で監督をしたときに”あの手紙が使えるんじゃないか?”ということで、ストーリーに盛り込んだんだ」 『ソウ3』でアマンダは、この手紙をきっかけに激情に駆られ被験者を殺す。『ソウ6』で、この手紙はジョンのもうひとりの後継者、ホフマン刑事の脅迫だということが明かされた。 つまり『ソウ3』に至るまで、アマンダはジョンの信頼を勝ち得ていない。今作でもアマンダはゲームのルールに厳格ではない。かつての自分と同じ薬物中毒者に情けをかけようとする。この筋の通し方は、いままでシリーズに多く関わってきたグルタート監督ならではだろう。もちろん、監督のいう”ファンサービス”はこれだけに留まらない。シリーズファンなら「そういうことか!」と膝を打つ仕掛けが目に止まることだろう。
仕掛けといえば、ジョンの準備した恐怖のトラップだ。あの観客を震え上がらせる残酷なゴア表現がなければ、『ソウ』が『ソウ』たる所以がない。今作でも強烈なトラップがいくつも仕掛けられている。そこでグルタート監督にお気に入りのトラップについてを聞くと、「どれも好きなんだけどね」と前置きした上で、こう答えてくれた。 「僕にとってはヴァレンティーナ(ポーレット・エルナンデス)が足を切る場面。スタッフ陣が『これは無理』と断言した衝撃シーンで、『こんな場面をリアルに演じられる女優はいない』って思ったんだ。でも、オーディションで第一候補になったポーレットは圧倒的なポテンシャルを持っていた。『ソウ』シリーズのダントツだった。役柄に没入しすぎて本当に切っちゃうんじゃないかと、心配になったよ」と称賛の声を送った。 全米初登場1位、ロッテン・トマト90%フレッシュを獲得した『ソウX』。 シリーズファンが楽しめることはもちろんのこと、殺人鬼が凶行に至る流れがわかりやすいドラマになっているため、シリーズ未見の方にもおすすめだといえる。 グルタート監督こだわりのホラーらしからぬラストシーンまで、是非目を背けず観ていただきたい。
取材・文 / 小倉靖史