世界が認める、鹿児島発「和紅茶」の誕生秘話
まずは知ってもらうために遊び心のエッセンスも
同社は1989年に自社製品の小売販売を手がける販売会社「和香園」を設立。茶葉の製造から販売まで一貫して行う体制を整えたことで、消費者の好みを的確に捉え、ニーズに応じた商品開発を柔軟に行えるようになった。堀口製茶は2021年に単一品種の、いわゆるシングルオリジンと言われる茶葉のみを使用した「カクホリ」ブランドを立ち上げる。 「“お茶の裾野は広く、柔らかく”をコンセプトに、農業にも遊び心を大切にしたいと思い、さまざまな取り組みも始めています。その一つが「茶畑戦隊茶レンジャー」です。台風が通過した後、畑に虫がいなくなったことを発見し、擬似台風を起こすことで害虫を吹き飛ばすことができる独自のマシンを開発しました。「茶畑戦隊茶レンジャー」は、その他4台の各種機能を備えたマシンを合わせた愛称で、化学農薬だけに頼らない、人と環境に優しい、理想のお茶づくり「スマート IPM(Integrated Pest Management)」を目指しています」(堀口) 2022年には“大隅のお茶の全て”を伝えるショップ「大隅茶全」をオープンした。 新しいお茶の愉しみ方を提案する場として、茶葉や茶器、スイーツなどの販売をはじめ、急須で淹れたお茶を嗜む空間として、従来の日本茶のターゲット層である50~70代の女性から若い層への新たなアプローチを図る。「急須を知らないから使わない。見た目のカッコよさがあれば茶葉からお茶を淹れることに興味を持ってもらえるでしょうし、飲んでもらえば美味しさが伝わるはず」と堀口は語る。 ■競争ではなく共創から始まるグローバル化 堀口製茶は現在、地元鹿児島県の若潮酒造の和紅茶を使ったお酒の開発を行っている。若潮酒造の芋焼酎は、酒屋が選ぶ焼酎大賞で、芋焼酎部門の大賞を3年連続受賞し、全部門で初めての「殿堂入り」を果たしている。こうした話題性のある商品を作る地元企業との共創をはじめ、世界に認められた和紅茶を国内外に広めるために駆け回っている。 THE LEAFIES受賞後、英国王室御用達の紅茶ブランド「Fortnum&Mason(フォートナム&メイソン)」から注文したいとの依頼を受けたため、2024年11月頃には英国本店の店頭に堀口製茶の紅茶が並ぶ予定だ。ここを足がかかりに、さらなる海外への展開を狙っていく。 競合他社について尋ねると、堀口は「競合はいません」と言い切る。 「キーワードは共創です。国内の緑茶の消費が減少している中、日本の農業が一つになって海外に出ていかなければならないと考えています」 その一環として、地域ごとの強みを最大限に生かした連携が重要と考え、“One Ohsumi”をスローガンに、同じ大隅半島に拠点を持つ大崎農園とタッグを組み、輸出強化とスマート農業の実装に向けての事業提携を締結した。 「世界3大銘茶・ダージリン、ウバ、キーマンに鹿児島の和紅茶を加えて、世界4大銘茶と言われるまでに地位を確立したいと考えています。次なる一手は、鹿児島県でのみ生産されている品種『ゆたかみどり』の和紅茶の販売です。日本における紅茶需要は確実に伸びています。最近では、生産者の技術も向上しています。今回弊社の和紅茶が受賞したことをきっかけに、海外でも注目されるようになった和紅茶生産が、日本の茶農家のひとつの選択肢となれば嬉しいですね」 堀口大輔◎鹿児島堀口製茶代表取締役社長/和香園代表取締役社長。1982年鹿児島県志布志市生まれ。明治大学経営学部卒業後、伊藤園入社。2010年鹿児島堀口製茶に入社。2018年代表取締役副社長および和香園代表取締役社長に就任。2023年より現職。日本茶インストラクターの資格を持つ。
Forbes JAPAN 編集部