YOASOBI、MAISONdesを手掛けたスタッフが集まり作られた新レーベル「Echoes」とは?【ON.PEOPLE】
“音楽が、人を照らす” THE FIRST TIMES発のインタビューコンテンツ「ON.PEOPLE」(オンピープル)。音楽シーンを支える人々にスポットライトを当て、その知られざるストーリーを動画とテキストで紐解いていく。 【動画】「Echoes」メンバーインタビュー 第一回で取り上げるのは、2024年9月に発足したソニーミュージックの新レーベル「Echoes」。YOASOBIやMAISONdes所属クリエイターの参加が発表され、大きな話題を呼んでいる。しかし一方、レーベルの全貌については、詳細には明らかになっていない。Echoesはどのような経緯で生まれ、どこを目指すのか。発足に関わった屋代陽平(YOASOBI担当)、山本秀哉(YOASOBI担当)、廣瀬太一(MAISONdes担当)、平林満己(宣伝PR担当)の4名に話を聞いた。 ■Echoesとは? Echoesはソニー・ミュージックエンタテインメントの新たなマネジメント&レーベル。 EchoesにはコンポーザーのAyase、ボーカルのikuraからなる“小説を音楽にするユニット”YOASOBIおよびソロアーティストとしてのAyase、幾田りら、「どこかにある六畳半アパートの、各部屋の住人の歌」をコンセプトにした音楽プロジェクトMAISONdes、石野理子(ex.赤い公園)・すりぃ・やまもとひかる・ツミキという実績豊富な新世代ミュージシャンが集結したロックバンド・Aoooが所属。また、音楽とクリエーションが好きな人たちが集まるコラボレーションプラットフォームMECREの運営もEchoesが手掛ける。 ■「色」のあるレーベルを作る ──本日は、新レーベルであるEchoesについて伺いたいと思います。まずは、それぞれ自己紹介をお願いします。 廣瀬太一(以下、廣瀬):レーベルのA&Rとしてキタニタツヤやasmi、くじらなどを担当しつつ、MAISONdesというプロジェクトにも携わっている廣瀬です。MECREという創作プラットフォームの企画、運営も行っております。 山本秀哉(以下、山本):YOASOBIを担当している山本です。Ayase、幾田りらのソロ活動にも携わっています。 屋代陽平(以下、屋代):私も山本同様、YOASOBIを担当しています。もともとは新規事業開発の部署で、YOASOBIが生まれるきっかけにもなった「monogatary.com」という小説投稿サイトを立ち上げました。 平林満己(以下、平林):もともとは主にアーティストのマーケティングやプロモーションを担当していて、現在は事業企画開発の部署でアートビジネスなどを行っている平林です。今日の収録場所であるギャラリー「New Gallery」の立ち上げにも携わりました。 ──ありがとうございます。では早速ですが、Echoesがどのようなレーベルなのかを伺えますか。 廣瀬:音楽に限らずさまざまなジャンルのクリエイターやアーティストと活動していくための枠組みとして、ソニーミュージック内に立ち上げられた新レーベルです。ここにいるメンバーが担当しているYOASOBIやMAISONdesが参加するほか、MECREなどのプラットフォームも含まれる予定です。立ち上がったばかりのプロジェクトなのと、案件毎に言うとこれまでやってきた事の延長だったりもするので「新しくこれをやっています!」とわかりやすく言えるものがまだないんですが、これからいろいろなプロジェクトがスタートしていくことになると思います。30代以下の若いスタッフが中心となって運営していく、生まれたてほやほやのチームです。 屋代:「ソニーミュージック」は知名度こそ高いものの、企業やレーベルとしてのカラーが強いわけではないと思っています。Echoesはその中で分かりやすいカラーが出せたらいいなと考えています。そのカラーに共鳴してくれるアーティストやスタッフが集まってくれたら理想ですね。 廣瀬:それぞれ個別にやってきたことがひとつのまとまりになると、外から見たときの「わかりやすさ」が生まれるのもよいのかなと。「箱」が生まれることで、声をかけてもらいやすくなったり、人が集まりやすくなったりするかもしれないとか、そういうことは意識しています。 ──Echoesはどのような経緯で立ち上げることになったのでしょうか。 屋代:もともと“新たにレーベルを立ち上げたい!”と思っていたというよりは、自分たちが各々チャレンジしてきたプロジェクトを、さらに広く展開していきたいという思いがありました。それでいろいろな人に相談するなかで、どうやら廣瀬や平林も同じようなことを考えているらしいぞとわかってきた。ちょうど世代も近いし、似たような方向を向いているのであれば、一緒にやったほうがいいだろうということで形にしていきました。 ■コンセプトや戦略からは逆算しない ──レーベルのコンセプトについて教えてください。 平林:コンセプトはあまり決めすぎないほうがいいと考えています。軸をはっきりと固めてしまうよりは、まずは各々やりたいようにやってみて、それが世の中にどう受け止められるのかを探りながら進めていきたいなと。こちらから“こう見せたい”というのを考えすぎると、嘘になってしまう気もするので。 廣瀬:レーベルの色みたいなものって、アーティストやプロダクトからしか生まれてこないと思うんです。たとえば、Ki/oon Musicなんかはまさにそんな感じでしたよね。「Ki/oon Musicっぽいアーティスト」がいたわけじゃないし、音楽のジャンルもバラバラだったけれど、なぜか「らしさ」がにじみ出ているというか。そうありたいというのは考えています。 山本:どういうレーベルにしたいかという話で言うと、「いいチームにはいい才能が集まってくる」というのは意識しています。特に今は日本の音楽が世界的に注目されつつあるタイミングでもあるし、若い才能がたくさん出てきている。その人たちが集まってきてくれるようなチームでありたいですね。 廣瀬:あとは、所属するスタッフの皆さんには、それぞれが向き合うアーティストに「自分たちと一緒にやる理由」をきちんと答えられるような状態で居て欲しいな、と思っています。その答え自体はなんでもいいんですけど。今の時代、音楽を作って発表することのハードルはだいぶ下がっているじゃないですか。ひとりでも曲を作って発表して成功できるかもしれないというなかで、「レーベルと組む意味」ってなんなのだろうと。そこで自分なりの答えをそれぞれのスタッフが持ってくれていたら理想です。 ──「コンセプトは決めすぎない」というお話がありましたが、事前にいただいていた企画書を見ると、尖った雰囲気も感じ取れたんですよね。たとえば、企画には直接関係なさそうな、ガチャガチャやエナジードリンクの自販機などのビジュアルがたくさん入っていたり…。このあたりは、どなたの趣味やアイデアなんでしょうか。 屋代:ガチャガチャはみんな好きですね。 廣瀬:「オフィスにガチャガチャを置きたいよね」というのがあって。それは自分たちがまず面白がりたいっていうのと、来てくれた人に「僕たちのオフィス面白いでしょ」って自慢したいっていう。 ──そういう遊び心は、Echoesの世界観にも関係してくるのでしょうか。 屋代:精神性としてはあるかもしれません。ガチャガチャ置こうよとか、紙袋も会社支給のじゃなくてもっとかっこいいやつを作ろうよとか、普段からそういうことはよく言っていますね。 山本:外から見ても、“この人たちはどういうものを良いと思っているんだろう”っていうのが伝わりやすくなりますよね。そこで合いそう、合わなそうと判断してもらえるといいのかなと。 ──“こういう人に届けたい”というターゲットのイメージはありますか。 平林:特定の層に向けてというよりは、名前の通りゆっくり波紋が広がって、いろいろな人と反響し合う、みたいな広がり方のほうがしっくりきます。それが日本のどこに、あるいは世界のどこに届くのかは、やってみないとわからない部分もありますし。 屋代:ちょっと違うかもしれませんが、同業他社の方々との接点が生まれたら面白いかなとは思っています。普段、自分たちがどう見えているのかって意外とわからないですし、僕たちもあまり他社のことはよく知らないので、意外と協力できる部分もあったりするのかなとか。そこも、Echoesが何かひとつのきっかけになればいいなと思いますね。 ■Echoesを通じて、「やっていい」雰囲気を作りたい ──ソニーミュージック内のレーベルでありつつも、なるべく自由に動こうとしているというか。 屋代:そうですね。僕自身は、新規事業で小説投稿サイトを立ち上げたときも、YOASOBIを始めたときも、とにかく社内の人をどう巻き込むか、どうやって力を貸してもらうかということをずっと考えてきました。Echoesだけではなくて、そもそも会社って本質的にそうあるべきじゃないですか。Echoesはひとつの実験場として立ち上げましたが、本当はそういう実験精神をソニーミュージック全体に広げていきたいんです。 廣瀬:会社の外の人達へはもちろんなんですが、社内的なイメージで言うと「この会社って結構チャレンジさせてもらえるんだよ」っていうのを、少しわかりやすく見せたいなというのはあります。 屋代:そうですね。“あの人たちがああいう感じでできるなら、自分は別のことをやってみよう”とか、そういうきっかけになれたらうれしいです。それによって新しい取り組みがいろいろ生まれたら、同じ会社にいる自分たちも助かるわけじゃないですか。 ──ちなみに社内でも社外でも、Echoesを見て“面白そうだな”と思った人は、どこに連絡すればいいのでしょうか。 屋代:それこそEchoesのSNSとか。DMもおそらく解放されていると思います。 平林:我々であれば、誰に声をかけていただいても大丈夫です(笑)。もちろんできることできないことはあると思うんですけど、企業であれ個人であれ、面白い試みが一緒にできればという気持ちはあります。…確かにちょっと受け皿を考えておかないとなあ。 ■「グローバル」に対して先入観を持たない ──先ほどちらっと「世界」という単語も出ましたが、グローバル展開についてはどのように考えていますか。 廣瀬:「海外戦略を頑張ります」みたいなことって言われがちですけど、僕は「海外」って言葉自体がざっくりしすぎている気がしていて。エリアでくくってもあまり意味がないというか、“海外向けに特別なことをやったりしないのがいちばんの海外戦略”ぐらいに思っているんですよね。 屋代:YOASOBIの海外公演を見ていてもそれは感じます。海外に打って出ていくというよりは、そもそも世界中に聴いてくれているリスナーがいるので、ファンがいる場所に行ってライブをするというだけですよね。もちろん地域ごとの違いはあるのでそこは面白いし、これからもいろいろな場所に行けたらいいなとは思いますが。 山本:YOASOBIをやっていて思うのは、「日本の音楽」というくくりで聴いてくれている人が結構いるんですよね。アーティスト単体で展開するよりも、あえて束になったほうが文化として浸透しやすいんだろうなとは感じています。その意味でも、Echoesという箱を作ることには意味がありますよね。国を跨いで聴いてもらうのって、やっぱりそんなに簡単なことではないので。 ──強いて言えばこのエリアが面白い、というのはありますか。 廣瀬:傾向を語るのはちょっと難しいですよね。たとえば東南アジアは人口も伸びているし、デバイスに向かう時間も長いから、マーケットとしては魅力的だとよく言われます。ただ、そんなに安易に考えていいのかと。実際、イベント事の集客などは充分にあっても、それはあくまでお祭り騒ぎに対する需要でしか無くて、アーティストの背景を理解して好きになる、というファンビジネス的な消費態度は、まだそこまで根付いていない印象もあります。そういう地域の事情や傾向をひとつひとつ理解していきながら、どうすれば自分たちの文化を受け入れてもらえるのかを考えていく必要があるのかなと。 屋代:特定の地域や層に向けて作るものをチューニングしたりとかっていうのは、全体で見るとめちゃくちゃ効率が悪いことだと思うんです。あくまでも、自分たちがいいと思うものを作って、それを受け入れてくれる人たちに応えていくという形が理想ですよね。 ──先入観や戦略を持ちすぎず、自分たちがやって楽しいことを素直に広めていくというのが、Echoesの共通したテーマなのかなと伺っていて思いました。 山本:それしか得意じゃないですからね。「合わせる」のは逆に難しいというか、結局付け焼き刃になってしまうので。 ■最終的には「お店」を作りたい ──最後に、直近でやりたいことや、長期的に実現したいことを教えてください。 平林:僕は広報やコミュニケーションの担当なので、その観点でアーティストやクリエイターとお客さんとの間に、うまく噛み合う歯車をいろいろ作ってみたいなと思っています。それはもしかしたら本かもしれないし、オーディションかもしれないし、具体的にはまだわかりません。こういう場所だからこそ実験できることがあると思うので、そこは楽しみながらやっていきたいです。 廣瀬:僕はとにかく、1日も早くめちゃくちゃでかい看板をオフィスに作りたいですね。やっぱり物事の始まりにおいては、物理的にも精神的にも「看板を掲げる」のが大事かなと思うので。他社や他部署の人が見て“なんじゃこりゃ!”ってなる看板をとにかく作りたいです。 山本:自分はちょっと抽象的になっちゃいますけど、過去も含めてアーティストが“あそこを目指したいな”って思うようなレーベルがたくさんあったと思うんですよね。どうすれば今の時代にマッチした形でそういう場を作れるのかなというのは、これから考えていきたいテーマです。 屋代:僕は本屋さんをやりたいですね。それこそEchoesでやるなら、Echoesらしい考えや雰囲気が伝わるようなものがずらりと並んだ世界を作れたら楽しいだろうなっていう。たぶん、各々やりたいお店があると思うんですけど。 廣瀬:それでいうと、俺はスナックを作りたい。 山本:僕は服のセレクトショップですかね。カフェとかもくっついているような。 平林:自分はある意味、もう「New Gallery」に携わっているので…(笑)。 屋代:というのもありつつ、もうひとつは真逆の話で、僕はEchoesを会社にしたいと思っているんです。本来は音楽の会社って、アーティストやクリエイターと一緒にビジネスを作り、それがちゃんと利益を生んで、関わってくれた人みんなにそれが還元されるというハッピーなプロセスを生み出せるものだと思っていて。でも実際は、業界的にはたとえば搾取の問題や労働問題があったりして、そのことでみんなが「会社」というものにポジティブなイメージを持ちづらくなったりしている。そうなると、そこに新しい世代の才能のあるスタッフやクリエイターが集まらなくなってしまうかもしれないですよね。それは、僕らが今後絶対に解決していかなきゃいけない課題だと思っています。Echoesでは、規模は小さくても、そこにひとつのモデルケースを作るつもりで挑戦していきたい。それが長期的な目標ですね。 INTERVIEW & TEXT BY 松本友也
THE FIRST TIMES編集部