水責め、睡眠妨害…テロ組織幹部への拷問で問われた米国の「正義」 愛用のG-SHOCKを外して入った機密だらけの軍事法廷には独特のルールが【グアンタナモ報告・後編】
▽軍服姿とベール 「全員起立!」。マシュー・マコール裁判官の入廷に合わせた守衛の米兵の声がスピーカーから響く頃には、傍聴席の記者たちは既に着席していた。40秒前にガラス越しに入廷を確認して起立したからだ。目の前の光景とモニターの映像、音声がずれる違和感に最初は戸惑い、40秒が長く感じた。 裁判官席に向かって左手の弁護団側には6列の長机に5席前後、右手の検察側は4列の長机に2~3席が並ぶ。各席にモニターがあり、オフィスのようにも見えるが、弁護団も検察側も3~4人に1人は米軍の制服姿で、空軍大佐のマコール裁判官も法服の下は制服だ。 軍事法廷では米軍の法務関係者が被告の弁護に入り、死刑が適用される罪の場合は公費で民間の弁護士を雇える。他にも人権団体の全米市民自由連合(ACLU)が弁護費用を拠出するなどして弁護団は大規模で、出廷する女性数人はイスラム教徒の被告に配慮し、スカーフやベールで頭と体を覆っていた。
▽拷問の実態 守衛らが弁護団脇の出入り口を気にし始めた。ドアが開き、最前列に座ったのはハリド・シェイク・モハメド被告。アルカイダ幹部として、航空機をハイジャックしてニューヨークの世界貿易センターや米国防総省に突っ込ませるという恐るべき計画を立案したとされる人物だ。 2003年3月にパスキスタンで拘束された際の写真は、白い肌着にがっちりとした体格だった。ガラスの向こうにいる男はやせこけ、当時の面影はない。オレンジ色のあごひげに、イスラム文化圏の伝統衣装を身にまとい、身長は150センチほど。法廷の中でもひときわ小柄だった。 被告5人は2002~03年の拘束後、CIAの秘密施設に移送された。米上院の報告書によると、モハメド被告は手足の自由を奪われ、顔に大量の水を注いで自白を迫る水責めを約2週間に183回受けた。その間、眠らせないように約180時間にわたって立ったままの状態にもさせられた。