「カープには忍者が2人いる」…菊池涼介と並び称される守備の職人・矢野雅哉は「くせ者」の呼び名がよく似合う
広島には忍者が2人いる――。いつしかそうささやかれるようになった。一人は2013年から10年連続でゴールデン・グラブ賞の二塁手、菊池涼介(34)。もう一人は開幕後まもなく、遊撃手の座をつかんだ4年目の矢野だ。
7月31日のDeNA戦。一回二死二、三塁で、矢野は中前へ抜けそうなゴロを二塁ベース後方で捕球。回転しつつ、倒れ込みながら一塁へ送球し、間一髪でアウトにした。鋭い反応、バランス感覚、正確な送球がかみ合った離れ業に、新井監督も「打点2ぐらいの価値がある」と目を丸くした。
守りを買われての抜てき。それを理解するからこそ、「ミスしたら終わりだ」と言い聞かせてきた。試合前に打者のデータを頭にたたき込み、打球の傾向や状態を把握。味方投手の調子を見極め、1球ごとに守備位置の微修正を怠らない。
「情報が頭に入っていないと、守る以前の問題。ポジショニングも取れない」。今季、並外れて広い守備範囲でチームを何度も救った。
心に刻みつけた菊池の言葉
その〈守備の職人〉が「野球人生で一番悔しかった」というミスを犯した。優勝争いのさなかだった8月27日の中日戦。四回、平凡なゴロをそらしてピンチを広げ、痛恨の逆転負けを招いた。シーズンの行方を左右しかねない今季10個目の失策に「自分の守備で負けた」とぼう然とした。
試合後、オフの自主トレをともにする菊池に「食事に行くぞ」と誘われた。「俺も(13年の)1年間で18失策したし、大事な場面でエラーもしてきた」。20年に二塁手として両リーグ初のシーズン無失策を記録した名手の一言、一言を心に刻みつけた。
ミスなくして上達はあり得ない。尊敬する菊池もまた屈辱をバネにしていた。9月にチームがリーグワーストに並ぶ20敗を喫す中、矢野は1失策で踏ん張った。
打撃でも存在感
今季、初めて規定打席に達し、課題だった打撃も改善された。バットを短く持ってこつこつ当て、チーム5位の打率2割6分をマークし、俊足を生かして13盗塁。追い込まれてもファウルで粘り、中日・涌井に22球を投げさせて四球をもぎとった打席もある。