急な大雨や雷に注意!夏のおでかけで気をつけるべき天気とは
夏休みには大自然の中でレジャーを楽しんだり、花火大会や音楽フェスに行ったりと、ワクワクする予定を立てている人も多いはず。そんな夏のおでかけで注意したいのが、夕立などといった天気の急変だ。都心部はもちろん、特に山などは天気が急変しやすいので、気をつけるに越したことはない。そこで、気象庁 名古屋地方気象台の気象情報官・常盤実さんに、夏のおでかけ時に気をつけるべき天気について教えてもらった。 【図解】線状降水帯の発生メカニズム ■“大気の状態が不安定なとき”は、夕立に注意! ―― 夏の天気の急変といえば「夕立」が身近ですが、そのメカニズムを教えてください。 【常盤】夏の午後に降る雨のことを「夕立」と言います。地面付近の湿った空気が夏の強い日差しで暖められ、その空気が上昇してできた積乱雲などが原因です。日中で最も気温が高くなる昼過ぎに、上昇気流が強まり雲が発生します。その雲が夕方にかけて積乱雲に発達して、雨が降るのです。 夕立をもたらす積乱雲は、1時間ほど雨が降れば消えてしまうのも特徴的です。また、雲の高さは非常に高くなりますが、広さは直径で数キロ~10キロほどと狭いので、雨の降る場所と降らない場所がはっきりと分かれています。こうした特徴から、短時間で強い雨が降り、その後晴れることも多いんです。 ―― どんな気象状況だと、夕立が降りやすいのでしょうか? 【常盤】上空に寒気が入って来て、大気の状態が不安定なときですね。上空に寒気があるかどうかは、「高層天気図」というものを見ればわかります。ですが、普段テレビの気象予報などで見る天気図は「地上天気図」と呼ばれるものなので、皆さんが「高層天気図」を見る機会はほとんどないと思います。 ―― 私たち一般の人が空を見たり、地上天気図を見たりするだけではわからないんですね。 【常盤】そうですね。ただ、大気の状態が不安定なときは雷注意報が発表されて、天気予報では「急な大雨や落雷に注意して」などと伝えているはずなので、意識して聞いてみてください。 ―― 言われてみれば、「大気の状態が不安定なので~」というフレーズは天気予報でよく聞きます。 【常盤】逆に、その地域が高気圧にすっぽりと覆われ、比較的乾燥しているときは大気が安定しているので、夕立が降る可能性は低くなります。高気圧の範囲内では下降気流が発生しているので、積乱雲ができる原因となる上昇気流が起こりにくいというわけです。 ■夕立に遭ったら、雷にも注意して! ―― 夕立はどんな場所で降りやすいのでしょうか? 【常盤】平地よりも山地に降りやすいです。これには、先ほど説明した夕立のメカニズムとはまた別の理由があります。 一般的に、夏の日中は海から湿った風(海風)が内陸に向かって吹きます。海風が陸地を通るうちに暖められ、最終的に山地にぶつかるなどして上昇気流となります。また、海風とは別に、平野部や谷底で暖められた空気が山(谷)の斜面を上昇する風(谷風)も吹きます。これら2つの風により積乱雲が発生して、山地で雨が降るというわけです。そして、山地特有のこの現象にプラスして夕立のメカニズムも働くため、山地はより雨が降りやすいんです。 ―― 夏のおでかけで、山のほうに行く人も多いかと思います。突然の夕立に遭ったときに、気をつけたほうがいいことを教えてください。 【常盤】発達した積乱雲は、激しい雨だけでなく、雷や竜巻も起こします。夕立の多くは1時間くらいでやむことが多いので、雨はもちろんですが、雷にも気をつけてほしいです。 雷は、高い物に落ちる傾向があります。そのため、グラウンドやゴルフ場、屋外プール、堤防や砂浜、海上などの開けた場所、山頂や尾根といった高い場所では、人に落雷しやすくなります。 雷の音が聞こえたら、できるだけ早く建物や車の中に避難してください。近くに建物がない場合は、木や電柱などから4メートル以上離れてかがんでください。4メートル以上離れるのは、木などに落雷した電流が人に飛び移ることがあるからです。 ―― 雷が遠くで鳴っていても避難したほうがいいですか? 【常盤】積乱雲は直径で約10キロほどの広さがあるので、遠くで聞こえたとしても、すぐ近くに落ちる可能性があります。また、発達した積乱雲は竜巻を起こすこともあるので、注意してください。 ―― ということは、積乱雲そのものに注意したほうがいいのでしょうか? 【常盤】積乱雲自体は夏によく見かける雲なので、いかにも雨が降りそうな暗い雲が近づいてきたら気をつけてください。 ■ゲリラ豪雨や線状降水帯など、大雨の日が増えている!? ―― 近年、「ゲリラ豪雨」や「線状降水帯」という言葉をよく聞きますが、夕立とは違うのでしょうか? 【常盤】「ゲリラ豪雨」とは、短い時間に非常に激しく雨が降る状況のことで、一部の報道機関などで使われている呼称です。2006年ごろからマスコミが使用しはじめ、2008年に流行語大賞トップ10に選出されましたが、正式な気象用語ではありません。 「線状降水帯」は、2014年8月の広島県での豪雨災害以降、頻繁に使われるようになったようです。厳密な定義はありませんが、発達した積乱雲がほとんど同じ場所で次から次へと生まれ、それが上層の風により移動していくことで線状に連なり、大雨を降らせます。一般的な夕立は1つの積乱雲によるものなので、1時間程度で雨はやみます。ですが、「線状降水帯」ではどんどん雲が作られ、同じ場所で雨が降り続けるので大雨や豪雨となりやすいんです。 ―― どちらも、意外と最近使われるようになった言葉なんですね。 【常盤】そうですね。特に「線状降水帯」は甚大な災害を引き起こすような豪雨となることもあるので、気象庁では重要視している現象です。一方で、「線状降水帯」のメカニズムはまだきちんと解明されておらず、発生しやすい気象状況を統計的に解析できるようになってきたというレベルです。 ―― こうした大雨の気象現象は増えているのでしょうか? 【常盤】「線状降水帯」については、気象庁が一定の条件で解析しはじめたのは最近のことで、増えているのかどうかまではわかりません。 ただ、ここ100年ほどの降水量のデータを見ると、年間の降水量自体は増えていませんが、“1日の降水量が100ミリ以上の日”は増えています。つまり、大雨の降る日が統計的に増えているということ。これは地球温暖化の影響によるものだと考えられています。 ――「線状降水帯」によるものだけではないけれど、大雨の日は増えていると。 【常盤】はい。今後も温暖化が進めば、さらに大雨が増える可能性もあります。大雨が予想される際、気象庁からは警報や「キキクル(危険度分布)」などの防災気象情報を発信しているので、そちらも活用していただければと思います。 ■海や山へ出かける人は天気予報のチェックを忘れずに! ―― 夏のおでかけでは、大雨のほかにはどんなことに気をつけるべきでしょうか? 【常盤】とにかく熱中症に気をつけてください。夏は湿度が高く、日中は気温も高くなります。こまめな水分補給はもちろん、日傘や帽子を活用するなど、しっかりと対策をしてください。 また、夏のレジャーで海や山へ出かける際は、事前に天気予報を確認してください。海では台風の影響を受けて高波が発生することがあります。特に夏~秋は台風が発生していることがあるので、台風が遠くにあっても波浪注意報が出ているときは慎重に行動してください。また、山へ登山やキャンプに行く方もいるかと思います。山岳地帯は天気が急に崩れることが多く、積乱雲も発生しやすいため、余裕を持った計画や行動が必要です。 ―― ありがとうございました。 せっかくの夏のおでかけ、できれば一日中晴れてほしいものだが、天気の急変はつきものだと考えておくと安心かもしれない。特に、海や山など自然豊かな場所では、急な大雨や雷が災害につながることもある。事前に天気予報をチェックして、落ち着いて行動できるようにしておこう。 取材・文=溝上夕貴