早稲田大など、超小型衛星「GRAPHIUM」にPale Blueの水エンジンの使用を検討
早稲田大学と東京科学大学(旧東京工業大学)は11月5日、超小型衛星「GRAPHIUM」の開発でPale Blue(千葉県柏市)と連携を開始したことを発表した。GRAPHIUMでPale Blueの水エンジン(水推進機)の使用を検討する。 2027年の打ち上げを目指している、重さが50kg級というGRAPHIUMは、小型で高感度なガンマ線観測装置「INSPIRE」を搭載して全天をモニタ観測する。副ミッションとして空力でのフォーメーションフライト技術の実証を予定しており、水推進機の使用を検討している。 水推進器は、液体の水から生じる水蒸気の噴出を推進力とするもので、従来の推進剤であるキセノンやヒドラジンのような危険性がなく、取り扱いが容易で低コストな点が特徴。ソニーの衛星「EYE」に採用されたことでも話題となった。 地上では約300種類の元素が知られているが、金やプラチナなどの希少金属(レアメタル)が宇宙のどこで作られているのか謎とされている。現在有力な説は「キロノバ」と呼ばれる現象。高密度な中性子星が合体する際に金やプラチナが生成されると考えられている。 キロノバは強い重力波源として考えられているが、宇宙のどこで、いつ起きるのか予想できないという。全天のキロノバを監視しつつ、金やプラチナに特有なエネルギーを持つX線やガンマ線を捉えることができれば、そこが元素の生成現場と特定することができる。 だが、ガンマ線の観測は難しく、これまで打ち上げられた数少ない衛星はいずれも欧米の4000kg以上の大型衛星。これらの衛星は観測視野も狭く、キロノバのような突発天体の観測には不向きとされている。 GRAPHIUMは、「ひばり」「うみつばめ」に続いて東京科学大学と早稲田大学が合同で開発する超小型衛星プロジェクト。主ミッションとして、キロノバなどの突発ガンマ観測を掲げ、宇宙でのレアメタルの生成現場を観測する。 一度で全天の4分の1をモニターする広視野で高感度のX線ガンマ線カメラであるINSPIREを搭載することで、50kg級の衛星でも、従来の大型衛星に匹敵するガンマ線観測が可能としている。通信や測位など産業で活用されてきている小型衛星に新しい息吹を与え、新しい科学の方向性を示すものになると説明している。 GRAPHIUMの副ミッションとして将来の宇宙工学を見据えた技術実証を予定している。具体的には、マーカーとなる数キログラムの物体を打ち出し、汎用的な小型カメラで検知する。大気抗力や揚力の空力で推進剤の消費量を大幅に削減してフォーメーションを形成する、エコな相対軌道制御の実証実験という。 その補助となる推進機もエコで地球に優しい水推進機の使用を予定している。これまで活用されてきている推進剤は、有毒な化学物質を使用するものや高価で貯蔵が難しいなど多くの課題が指摘されている。GRAPHIUMでは、Pale Blueとの産学連携で水推進機の実利用を拡大させると狙いを説明している。 GRAPHIUMの開発は、国立研究開発法人の科学技術振興機構(Japan Science and Technology agency:JST)が進める「戦略的創造研究推進事業(Exploratory Research for Advanced Technology:ERATO)」での「片岡ラインX線ガンマ線イメージング」プロジェクトの一環として進められている。 同プロジェクトでは、「元素固有の色」であるラインX線ガンマ線のイメージングの技術と概念を通じて、宇宙から医療を貫く新しい学問の潮流を創成することを目的という。金やプラチナの起源を探りながら、医療に応用できる可能性に着目して、関連する分野や技術を網羅的に包括しながら、研究を進めているとしている。 金やプラチナは貴金属として社会や産業に根付き、レアメタルはコンピューターやスマートフォンの基板にも多用されている。 金は生体適合性が高く、最も安全な金属として多くの医療機器に活用されている。近年は、粒径が数十ナノメートル以下の「金ナノ粒子(AuNP)」が抗癌剤など薬物を患部に運ぶキャリアとして、光温熱治療でも注目を集めているという。 一方で、常にネックとなっているのが「体内の薬物動態を可視化する技術」とされている。薬物が人間の体内の狙った場所に、狙ったタイミングで届けられるかを確認する手段がなく、治療効果の最適化や新しい薬物の開発を困難にしていると指摘されている。 宇宙でキロノバを探す要領で、人間の体内の金やプラチナを探すことができれば、これまで見えなかった薬物動態も可視化できるようになると期待されている。 すでにキロノバで起きる金の元素合成にアイデアを得て、マウス体内でのAuNP分布を可視化することに成功したという。診断装置であるコンピューター断層装置(CT)に色付けをすることでAuNPの分布のみを抽出することにも成功している。これらはすべて、小型衛星開発から得られた知見を活用しているという。
UchuBizスタッフ