ディック・ブルーナの名言「単純な中にもユーモアや感情を見せたい。」【本と名言365】
これまでになかった手法で新しい価値観を提示してきた各界の偉人たちの名言を日替わりで紹介。うさぎの女の子の物語『ミッフィー』シリーズをはじめ、120冊を超える絵本を手がけたディック・ブルーナ。彼の手から生まれたキャラクターたちはシンプルな線で描かれているのにとっても表情豊か。ブルーナの作品が国を越え、時代を越えて愛される理由を探ります。 【フォトギャラリーを見る】 単純な中にもユーモアや感情を見せたい。 温かみのある手書きの線と6色の色彩で描かれた小さなうさぎの女の子、ミッフィー。その生みの親、ディック・ブルーナは独自のユーモアや情感を織り交ぜながらシンプルな世界観にこだわった作家だ。 彼の手から生まれた数々のキャラクターたちはどれもシンプルな線で描かれているが、線の傾きや長さといったちょっとした違いで、嬉しさや悲しさといった感情が見事に伝わってくる。 「ミッフィーのほんの少しの悲しみや、喜びの表情を、たった2つの点とバッテンで表現することに、私がどれくらいの時間を費やしているか、皆さんには想像もつかないことでしょう」とブルーナ。 ミッフィーが誕生した当時、デジタル技術が普及していなかったこともあるが、その後周囲からコンピュータの利便性をどれだけ説かれても、ブルーナは生涯手で描くことにこだわった。そこには「単純な中にもユーモアや感情を見せたい」という思いがあったからだ。 口のバッテンを上げたり下げたり、伸ばしたり、短くしたり。ブルーナは一枚のミッフィーの絵を描くのに百枚以上のスケッチをし、納得のいくまで描き続けた。時間もかかるし、手間もかかる。手描きだから、どうしてもわずかな震えが線に出てしまう。そのことに対してブルーナは「この僅かな線のふるえが絵全体を生き生きとさせているように思えてならなかった」と語っていたという。心臓の鼓動や息遣い、思いが手を伝って、キャラクターに豊かな感情を吹き込むことができると感じていた。ブルーナが生み出したキャラクターが言葉や文化、時代を超え、たくさんの人に愛されているのは誰が見てもすぐにわかるほどシンプルで、あたたかで、正直で、そして、ヒューマニティが宿っているからだ。
ディック・ブルーナ
1927年オランダ生まれ。絵本作家、グラフィックデザイナー。1951年からブックカバーのデザインを始め、通算2000冊以上を手掛ける。小さなうさぎの女の子を主人公にした絵本シリーズで知られ、全世界で50ヶ国語以上に翻訳されている。2017年逝去。
photo_Yuki Sonoyama text_Mariko Uramoto