【社説】火山本部の発足 人材育て防災力の強化を
地震防災と比べて「周回遅れ」と呼ばれる火山防災体制を強化する土台になる。支える人材を、火山と共生する九州からさらに輩出したい。 火山の観測と噴火のリスク評価などを一元的に担う政府の火山調査研究推進本部(火山本部)が先月、文部科学省に創設された。 文科相が本部長を務め、火山や防災の専門家、気象庁、内閣府などの関係省庁で構成する。夏ごろまでに調査観測計画をまとめ、国内に111ある活火山の評価を進める。 これまでは気象庁や大学が個別に観測や研究を行い、そのデータを火山噴火予知連絡会(予知連)が集約し、火山活動を評価していた。 気象庁長官の私的諮問機関である予知連には他機関との調整機能がないため、データ分析の成果を防災対策に生かし切れていない面があった。火山本部は名実ともに火山防災の司令塔となる。 モデルになったのは、1995年の阪神大震災を契機に国が設置した地震調査研究推進本部(地震本部)だ。観測網の整備や活断層の調査、発生確率の研究を進め、一定の成果を上げている。 火山本部にも観測・予測情報を発信し、命を守るために必要な備えや取るべき行動の要点を提示してほしい。 日本は世界に約1500ある活火山の1割近くが集中する火山大国だが、24時間体制で活動を監視している火山は50にとどまる。九州では17の活火山のうち、常時監視しているのは阿蘇山、雲仙岳、桜島など九つだ。 観測網は不十分である。火山災害は地震や豪雨よりも頻度が低く、軽視されがちだった。国立大の法人化に伴う予算削減の影響で、研究体制も急速に弱体化している。 とはいえ、ひとたび大規模噴火が起きれば被害は甚大である。活動が活発化している火山は少なくない。 長崎県の雲仙・普賢岳は90年に198年ぶりに噴火し、翌年6月3日の大火砕流で43人が犠牲になった。2014年の御嶽山噴火(長野、岐阜県)では、戦後最悪の63人の死者・行方不明者が出た。 火山本部で火山活動の評価を担当する火山調査委員会の清水洋委員長(九州大名誉教授)は「噴火予知は発展途上の技術。まだまだ調査研究を続けていくことが不可欠」と強調する。 調査研究の体制強化は大きな課題だ。観測にも関わる国内の火山研究者は20年度で約110人しかいない。300人近い地震研究者に比べて明らかに少ない。 観測網を拡大し、基礎研究を充実させるために人材の育成を急ぎたい。十分な予算、能力を発揮できるポストの確保が必要だ。 清水氏がトップを務めた九大地震火山観測研究センター(長崎県島原市)は、噴火災害の研究や人材育成で国内をリードしてきた。その役割はますます高まっている。
西日本新聞