韓国で社会現象も…映画『シュリ』初公開時になぜ日本の観客は恐怖したのか? 徹底解説
アジアのみならず世界を席巻している韓国コンテンツ。そんな韓国コンテンツを語る上で外せない作品が、1999年公開の映画『シュリ』だ。しかしこの作品、大人の事情から長らく「幻の作品」と言われ、この度ようやく4K再上映が実現した。そこで今回は、『シュリ』ど真ん中世代の筆者が魅力と衝撃をたっぷりと掘り下げる。(文・中川真知子) 【写真】心震える名シーンが蘇る貴重な未公開カットはこちら。映画『シュリ』劇中カット一覧
「幻の作品」と言われていたワケ
今や当たり前になった韓国コンテンツ。だが、ほんの25年前までは、韓国がどんなコンテンツを作っているのかさえ知らない人が多かった。 当時はハリウッド映画全盛期で、1993年に『ジュラシック・パーク』が公開されて以降、VFXを多用したハリウッドの大作が次から次へと公開されていた。ダイナミックでロマンティックな、まだ誰も見たこともない映像が量産されていたのだ。 映画『シュリ』が日本に上陸したのは、『スター・ウォーズ エピソード1/ファントム・メナス』や『アルマゲドン』、『マトリックス』『シックス・センス』といった、映画史を代表する作品が公開された1999年。世間が徐々にVFX疲れを感じ始めたときだった。 血生臭さが漂う『シュリ』を見たときの衝撃は今でもはっきりと覚えている。そんな『シュリ』だが、権利関係が複雑で、再上映やストリーミング配信が叶わず、「幻の作品」と言われていた。だが今年、監督の尽力により、ようやく4K デジタルリマスター再上映が叶った。
『シュリ』が日本にもたらした衝撃と恐怖と熱狂
『シュリ』は南北関係をベースにしたスパイアクション映画だ。北朝鮮の女スパイと、韓国の男性情報部員の恋愛が描かれているため、当時は悲恋にフォーカスされて宣伝されていたような気がする。 だが、恋愛絡みのスパイアクションを期待して劇場に行くと度肝を抜かされること請け合いだろう。冒頭5分間は、北朝鮮の特殊部隊が受ける訓練の様子が描かれている。頸動脈をナイフで切る、丸太に括り付けられた人間を躊躇なく滅多刺しにする、連れてこられた人々を容赦なく攻撃し断首するなど...。 全身に血を浴びても表情ひとつ変えることなく、訓練の名の下に大量殺人を繰り返す人々の姿が映し出されるのだ。 描かれるのは、訓練兵の攻撃力の高さだけではない。彼らが、死をも恐れない「非情なマシン」であることも描かれる。南北関係が恋人たちを悩ますスパイアクション、という説明に間違いはない。しかし、想像の斜め上を行く展開に、ハリウッド映画に慣れていた日本は驚き、恐怖し、熱狂した。