広島の希望をつないだ東俊希の左足、先制点演出の芸術的クロスは「完璧でした」
あまりに美しい曲線だった。左ウイングバックのMF東俊希が左足で蹴ったボールはきれいなカーブを描き、逆サイドのFW加藤陸次樹にピタリと合わせて先制点をアシスト。「希望の翼」と名付けられたエディオンピースウイング広島の屋根が持つ美しい曲線を思わせる芸術的なクロスだった。 サンフレッチェ広島は12月1日、明治安田J1リーグ第37節で北海道コンサドーレ札幌をホームに迎えた。優勝を争う広島は前節3連敗で痛い足踏みが続くが、今節は首位のヴィッセル神戸が前日に引き分けたため、両者の勝ち点差は4ポイント。広島が優勝の希望をつなぐには、札幌と引き分け以上が不可欠だった。 今季リーグ戦最後のホームゲームに集まったのは2万7105人。選手入場時には、紫に染まった南スタンドに「12」の白文字が浮かび、「戦う仲間はここにもいる。やってやろうぜ」の横断幕が掲げられた。選手たちの背中にはサポーターたちがいる。東は、「いつも以上に感動して震えました。入場の時に思ったのが、自分たちのプレーで感動を与えられたり喜んだりしてくれる人がたくさんいるなということ。それがいいプレーにつながったと思います」と応援に力をもらっていた。 負ければ優勝消滅の一戦。さらに、今季限りで引退するMF青山敏弘と契約満了が決まったMF柏好文のベテラン2人も広島最後のリーグ戦でベンチメンバーに入っていた。「チームとして勝たないといけない試合だったので、みんなすごく気持ちが入っていた」(東)。 広島は立ち上がりからアグレッシブに戦い、早い時間にリーグ戦3試合ぶりの得点で勢いづいた。試合開始8分、ファールをもらったMFトルガイ・アルスランの素早いリスタートからFWゴンサロ・パシエンシアが左サイドへ展開。パスを受けた東が前線の動きを見て相手GKとDFの間に絶妙なクロス。ペナルティエリア右に走り上がった加藤がワンタッチで流し込んで先制のゴールネットを揺らした。 タイミングもスピードも軌道も完璧なクロスだった。東は、「前に出てくるGKだったので、(パススピードが)遅すぎても取られるし、GK寄りに蹴っても取れるし、感覚で蹴ったけど完璧でした。決めてくれるムツくんもすごい。あのタイミングで走ってくれる人はなかなかいないけど、(加藤が)走り出すのが見えていたので」と振り返った。 加藤も、「(パスが届くまで)時間があったので、ボールを見つつGKも見られた感じでした」と完璧なパスのおかげで余裕を持って状況を見極めていた。「1回ボールを流したら、GKの重心が僕の方に動くのが見えたので、コースはそれほど良くなかったけど、ズラしてGKの逆をつけたいいシュートでした」と自身の得点シーンを解説した。 広島は42分に同点に追いつかれたが、前半終了間際に再び東の左足が光った。右サイドからのFKでゴールに向かうボールを供給。「キックのフィーリングは良かったので自信を持って蹴った。GKは身長があまり高くないし、こっちは身長が高い選手がたくさんいるので、速いボールではなく、いつもよりは弱い力で蹴りました」。丁寧にコントロールされたボールは、わずかにパシエンシアの頭に合わなかったが、そのままゴール左隅へと吸いこまれた。「誰かが触ると思ったけど、結局自分のゴールになったのでラッキーですね」と今季リーグ戦2点目を喜んだ。 得点が決まった24番は一瞬戸惑ったような様子を見せつつ、すぐに両腕で翼を生やしてベンチに駆け寄っていった。「まさか入ると思ってなかったし、みんなゴール前にいて喜んでくれる人が近くにいなくて、どうしようか迷ったけど、セットプレーコーチのセハット(・ウマル)コーチとかベンチ全員含めて、そっちの方向に行こうと思いました」と笑みをこぼした。 東は87分にもCKでFWピエロス・ソティリウの追加点を演出。高精度の左足で1ゴール2アシストをマークして広島の希望をつなげた。チームを勝利に導いたが、「こういう絶対に勝たないといけない試合で力を出せるということは、毎試合出せるということ。1試合1試合こういうプレー、これ以上のプレーができれば、 個人としてもいい調子で続けられるので、毎試合できるようにいい準備をしたい」と改めて気を引き締めた。 広島は5-1の大勝で4試合ぶりの白星。神戸との勝ち点差を1ポイントに縮めて逆転優勝への可能性を残した。広島らしいアグレッシブさを発揮し、連敗中に失っていた得点力も爆発させて、最後の大一番を前に弾みをつけた。敵地でガンバ大阪と対戦する最終節は、まず勝利あるのみ。東は、「相手(神戸)にプレッシャーをかけられたし、僕たちは勝つしかないので。今日みたいなアグレッシブなサッカーを見せたい」と意気込んだ。希望はある。頂点に向けて最後に高く羽ばたきたい。 取材・文=湊昂大
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