文化もレベルも全てが違う中国のプロ野球選手たち。松岡功祐が彼らの指導にあたって心に決めた大切な事は?
【連載⑩・松岡功祐80歳の野球バカ一代記】 九州学院から明治大学へ入学。そしてかの有名な島岡吉郎監督の薫陶を受け、社会人野球を経てプロ野球の世界へ飛び込んだ。11年間プレーした後はスコアラー、コーチ、スカウトなどを歴任、現在は佼成学園野球部コーチとしてノックバットを握るのが松岡功祐、この連載の主役である。 【写真】中国で野球指導していた松岡功祐 つねに第一線に立ち続け、"現役"として60年余にわたり日本野球を支え続けてきた「ミスター・ジャパニーズ・ベースボール」が、日本野球の表から裏まで語り、勝利や栄冠の陰に隠れた真実を掘り下げていく本連載。今回は前回に引き続き、中国プロリーグの強豪『天津ライオンズ』のコーチを務めていた頃の裏話を聞いた。 * * * 食文化も衛生観念も全く違う国・中国で、松岡はどんな生活を送ったのだろうか? 「日本人が一番苦労するのは食事でしょうね。おいしいとかおいしくないとか以前の問題で。まず食堂自体が汚い。食べ物を平気で捨てていくから、テーブルの上もその下もそう。掃除をする人もいるんだけど、全然きれいにはならない」 それでも食べなければ体がもたない。 「毎日毎日、パンと牛乳と炒り卵だけを食べるという、そんな食事ですよ。小さな虫が入っていることもよくあるけど、そんなことを気にしていたら食べるものがなくなってしまう。生きていけないですからね。 衛生的にも料理の味も厳しいけど、僕はまったく気にしなかった(笑)。でも、日本から一緒に来た若いコーチは全然食べられなくて、どんどん痩せていきましたよ」 そして、時間に対する感覚も日本とは違っていた。 「日本であれば練習時間の20~30分前にグラウンドに出てきて自分なりに準備をするのが当たり前。でも、彼らは開始時間ぴったりに現れる。合理的と言えばそうなんでしょうね」 そして、寮やグラウンドにゴミが落ちていても、誰も拾おうとはしなかった。 「僕は明治大学野球部でしつけられましたから、そういうのは見逃せない。でも、みんな知らんぷりです。『どうして拾わないの?』と聞くと『それを仕事にしている人がいるからだ』と言う。そういう考え方もあるのかと思いました」 屁理屈のようにも聞こえるが、中国の選手たちは真剣な表情でそう言った。 「常識というものは、その土地土地で違うということを60半ばになって知りました(笑)。違いを認める、尊重することも大事なんだと。そうしないと、こちらのメンタルがおかしくなるというのもありましたね」 最近の日本では、ゴミが落ちていることに気づかない選手も多いという。 「観察力が欠けているのもそうですが、掃除の仕方がわからないという選手がいますね。やり方がわからないなら教えるしかない。だから、教育は大切です」 大谷翔平がグラウンドで見つけたゴミをさっと拾うシーンをみたことがある。彼がアメリカで人気があるのは、そのような姿勢に因るところがあるのかもしれない。 「そういう行為が自分を磨くことにつながるというのが日本流の考え方。それはいい部分だと思います。中国ではいろいろなところが気になりましたが、『それはそれ』と考えるようにしました」 ■自分の主張を口にすることの大切さ