アギーレ後任監督候補は「モチベーター」
元日本代表MFで現在は解説者を務める水沼貴史氏は、契約を解除されたハビエル・アギーレ氏の後任を託すことのできる日本代表監督の理想像をこう語る。 「日本サッカーのスタイルに合っている監督、日本人のメンタリティーを理解できる監督、これまで継続してきたものをしっかりと受け継いでくれる監督という表現がよく使われる点に、どうしても疑問を抱いてしまう。昨年のワールドカップ・ブラジル大会でもっとも面白かったのは、決勝トーナメント1回戦だった。いわゆるサッカー大国に決して強くはない国々が挑む構図となったなかで、チリやアルジェリア、アメリカ、コスタリカ、メキシコが見せてくれた勇気あるサッカーを日本代表の戦いにも見たいと思う。ワールドカップなどの大舞台を戦う上で、特に日本の場合は一体感が何よりも求められる。選手間で目標が統一されていない印象を与えた点で、ザックジャパンはバラバラだったような気がする。だからこそ、すべての選手のモチベーションを高めて、チーム一丸で闘わせることのできる要素がまず求められると思う」 ハリルホジッチ氏の「モチベーター」としての能力は、決して芳しくなかった開幕前の下馬評を賛辞の嵐へと変えた昨夏のワールドカップ・ブラジル大会で証明されている。 グループHのアウトサイダーと見られていたアルジェリア代表はベルギー代表との初戦を落としたが、短期間のうちに建て直して韓国代表に勝利。次回の開催国であるロシア代表と引き分けて2位を確保し、4度目の挑戦で初めてグループリーグ突破を決めた。 決勝トーナメント1回戦では、体を張った守備と守護神ライス・エンボリ(当時CSKAソフィア)の神懸かったセーブ、そして鋭いショートカウンターでドイツ代表と互角に対峙した。両チームともに無得点のまま突入した延長戦で2点を失ったが、あきらめることなく後半のアディショナルタイムに一矢を報いた闘志は見ている側の心を熱く震わせた。 歴史に残る敗者を演出したのが、ハリルホジッチ監督の巧みな采配だった。ドイツ戦を含めた4試合すべてで相手に対応してフォーメーションを変えるなど、戦術的な「引き出し」の多さで選手たちの潜在能力を存分に発揮させた。ブレることのない戦い方は、指揮官のチーム掌握能力の高さを物語っている。 2000年にデンマーク代表のアシスタントコーチに就任し、指導者の道を歩み始めたラウドルップ氏はビッグクラブを率いた経験はない。母国デンマークの古巣ブレンビーIFを皮切りに、ヘタフェやマジョルカ(ともにスペイン)、スパルタク・モスクワ(ロシア)、スウォンジ・シティ(イングランド)と中堅以下のいわゆる「持たざる」クラブで監督としてのキャリアを積んできた。 そのなかで注目に値するのが、ヘタフェの1年目の2007‐08年シーズンにスペイン国王杯でファイナルに進出し、UEFAカップ(現ヨーロッパリーグ)でもベスト8に導いた点だ。アウェーゴールの差で敗退したものの、UEFAカップ準々決勝ではブンデスリーガの強豪バイエルン・ミュンヘンとホーム、アウェーとも引き分ける健闘も見せている。 スウォンジ・シティの監督としてプレミアリーグに挑んだ2012‐13年シーズンには、カップ戦のキャピタル・ワン・カップを制覇してチームに初のビッグタイトルをもたらした。ヴィッセル時代のチームメイトで、現在は湘南ベルマーレを率いるチョウ・キジェ監督は「指導者としての彼をそれほど詳しく知っているわけではないので」とした上で、ラウドルップ氏の監督としての能力をこう推察する。 「選手たちを束ねて、ひとつの方向へ向かわせるのが上手いのかなと思いますね」