センバツ高校野球 宇治山田商、あと一歩 中盤の猛攻及ばず /三重
第96回選抜高校野球大会(毎日新聞社、日本高校野球連盟主催)の第8日の27日、宇治山田商は2回戦で中央学院(千葉)と対戦し、6―7で惜しくも敗れた。序盤に7点差を付けられたが、中盤から1点差まで追い上げた。反撃はあと一歩、及ばなかったが、アルプススタンドからは選手をねぎらう拍手が送られた。【原諒馬、塚本紘平】 【写真で見る歓喜の瞬間】歴代のセンバツ覇者たち ◇健闘にスタンド拍手 「相手が『うっとうしい』と思うような感じになれば」。試合前に村田治樹監督が語った通り、点差を付けられた後も、流れは相手に渡さなかった。 先制点を与えた後、三回表には中継が乱れて本塁への送球がそれ、失点。初戦でゼロだった失策も重なった。三回途中からエース田中燿太(3年)が送り込まれたが、四回にも追加点を奪われた。田中の父学さん(45)は「ハラハラする。まだ前半なので、巻き返してほしい」と願った。 この期待通り、徐々に流れが変わり、田中も調子を取り戻す。四回裏、郷壱成(2年)が中越え二塁打で出塁し小泉蒼葉(同)の内野ゴロで三塁へ。「まずは1点返したい」と打席に立った泉亮汰(3年)も内野ゴロで郷を生還させた。郷の父秀憲さん(49)は、不穏な空気を振り払う展開に「スカッとした。バンバン打って逆転してほしい」と期待した。 堅い守備から攻撃へとリズムを作る山商らしさが次第に現れる。六回には、1回戦に体調不良で出場できなかった阪口諒真(2年)が、悔しさを晴らすように適時打を放ち、3点差に。母ゆかりさん(47)は「落ち込んでいないかと心配し、試合前に『笑顔でがんばってね』と伝えた。諦めずに頑張ってくれた」と安心した。 七回に登板した中村帆高(3年)は、力のある直球やスライダーが決まり、最終回まで被安打ゼロの好投。「リラックスして投げられた。自分の持ち味が出せた」と手応えを口にした。 八回も伊藤大惺(同)と郷の連打で1点を返した。さらに、1死一、三塁から重盗を仕掛け、4打数3安打の郷が生還した。逆転の勝利へ期待は高まったが、最後は及ばなかった。4番・捕手で攻守に見せ場を作った小泉の母和代さん(50)は「始めは『もう終わったかな』と思ったが、その後は山商らしい粘りを見せてくれた。見ていて楽しかった」とたたえた。 ◇「阪口さんは憧れ」 ○…アルプススタンドには、宇治山田商の地元から600人以上が集結。右翼手・阪口諒真(2年)が所属した玉城町の「玉城スポーツ少年団」のメンバー=写真=は、六回の阪口の左前適時打に「かっこいい」と叫んだ。山本大翔(だいと)さん(11)は「阪口さんは憧れの人。いつか自分も甲子園に行って活躍したい」と心に決めた。点差を付けられてもあきらめないナインのプレーに、野球を続ける子どもたちが刺激を受けていた。 ……………………………………………………………………………………………………… ■ズーム ◇攻守で光った粘り強さ 宇治山田商・伊藤大惺主将(3年) 「守備からチームに勢いを作りたかった」。七回表、相手3~5番打者の遊ゴロを、一塁手・泉亮汰(3年)への落ち着いた送球でさばいた。八回裏には左前打で先頭打者出塁し、粘り強さを見せつけた。 甲子園を目指す原動力になったのは、嬉野中(松阪市)でバッテリーを組み、昨年の夏の甲子園で決勝の舞台を経験した、仙台育英の捕手・細田悠真(同)の存在だ。中学で投手だった伊藤は、捕手の細田を信頼。今年の正月も帰省した細田とキャッチボールした。 選手同士の掛け声も聞こえなくなるほどの大歓声に包まれる--。甲子園はそんな場所だと細田から聞かされた。だからこそ、甲子園のグラウンドに立った時に、それぞれの選手が考えて動けるチーム作りを目指した。宇治山田商のベンチ入りメンバーは、半分が下級生。「もっと後輩を巻き込んで、強くならな」と、のびのびプレーできる雰囲気を率先して作った。 この日の試合後、攻守で光った自身のプレーについて報道陣に問われても、「どこか受け身になっていた」と反省を口にし、目を赤くした。主将として、敗戦の責任を背負い込んだ。 新チームは当初、連係不足で昨秋の県大会地区予選では敗北さえ喫した。そこからのセンバツだった。村田治樹監督は「甲子園に来られたのは彼のおかげ。新チームでバラバラだった部分を彼がまとめてくれた」と称賛を惜しまなかった。【原諒馬】 〔三重版〕