なぜJリーグは政府指針が出る前に「8月1日以降観客50%動員」への制限緩和を見送ったのか?
もうひとつは、8月1日までに残された時間となる。今後のスケジュールを見れば、22日にも政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会(会長・尾身茂地域医療機能推進機構理事長)が開催され、分科会および政府から何らかのステートメントが発表されると見られている。 それらを受ける形で27日に新型コロナウイルス対策連絡会議の第12回会議が午後には再び臨時実行委員会が開催される。しかし、この時点で観客数の上限緩和が見送られれば、週末の主催試合へ向けたチケット販売を一から見直す大混乱に陥る。ただ20日の時点ならば、ほとんどのクラブがチケット売り出す前であり、村井チェアマンも「このタイミングがギリギリ――」と言及したわけだ。 ただ、個人的に募らせた危機感を強要することはしない。臨時実行委員会ではJ3までを含めた56クラブを東京、東京を除く首都圏3県、大阪、大阪を除く関西圏、今回の感染再拡大の影響を直接受けない地域の5グループに分けて、それぞれのクラブの代表取締役や理事長と丁寧に意見を交換。観客の入場制限に関する現時点の運用を、まずは来月10日まで延長する方針を確認した。 「例えば東京が直面している事情と必ずしも同じではない地域とでは、クラブ間の意見にしても大きな温度差があるのも事実です。それでも入場者数の上限に関する扱いを来月10日まで、慎重にしていくことに関して異論はなかったと、全会一致だったという認識を私はもっています」 実行委員会におけるやり取りをこう振り返った村井チェアマンは、8月11日以降に関しては2週間単位で、その都度判断を下していく方針も明らかにした。少しでも入場料収入を増やしたいという観点から、スタジアムの収容人数50%が上限となる状況を待ち焦がれていたクラブも多い。状況の変化に対して機動的に対応していくためにも、ウェブ形式会議の利便性を最大限生かしていく。
実行委員会後のブリーフィングでは言及しなかったが、感染の再拡大が懸念される最中で観光需要を喚起する経済政策、Go Toトラベルキャンペーンを前倒しで実施すると発表。直後に東京都を除外し、発生したキャンセル料を国が補填する前代未聞の方針を表明するなど、新型コロナウイルス対応で政府が二転三転する迷走ぶりも、村井チェアマンを動かす要因になったのではないだろうか。 現状では各スタジアムのビジター席は閉鎖され、アウェイクラブのユニフォームを着たファン・サポーターは入場できない。Jリーグが定める新型コロナウイルス感染症対応ガイドラインでは、こうした規制が8月1日以降は撤廃され、スタジアムでのアルコール類の販売も解禁される予定だった。 加えて、移動距離を少なくするためにクラブを東西に分けて、それぞれのエリアで対戦カードを組んでいた特別なマッチメークも8月1日以降はなくなる。そこへビジタークラブのファン・サポーターの入場が解禁されれば、政府がGo Toトラベルキャンペーンを推奨している状況と相まって、宿泊を伴う都道府県をまたいでの長距離移動が必然的に活発化する。 そうした状況で大都市圏での感染再拡大を鑑みたとき、サッカー界全体から新規感染者を出すリスクを軽減させるためにも苦渋の決断を下す必要があった。それこそが、新たな政府見解を待たずして現状を維持することだった。上限が収容人数の50%へ緩和され、ビジター席も解禁される状況を待って、アウェイ観戦を兼ねた旅行などを計画していたファン・サポーターへのメッセージにもなるだろう。 「毎節ごとに20から30もの見直す点や、あるいはチューニングすべき事項が寄せられてきます。ざっくりと言えば『ガイドラインで示された通りに運営できない』といったものになりますが、その都度、啓発をしながら、おおむね計画通りに進んできている、という認識でいます」 リモートマッチから観客解禁へと移行してきた軌跡を、村井チェアマンはこんな言葉で振り返った。もちろん現状に満足などしていない。必要ならば各クラブの運営担当者やマーケティング担当者を繋いだウェブ形式の会議を開催し、5000人を上限とする現状でファン・サポーターが安心安全にスタジアムへ足を運び、試合を楽しみ、満足して帰路に就くためのプロトコルを随時徹底していく。 (文責・藤江直人/スポーツライター)