「推理小説書くよう仕向けられた」松本清張、視野狭き純文学文壇へ小さな抵抗
日本の純文学文壇に収まりきれなかった清張文学
それとともに注意したいのは、権力との関係の中で生きていかざるを得ない人間の恐怖や不安そして苦悩を、清張小説のようにリアルに物語った小説が、純文学の中でどれほどあっただろうかということである。残念ながら、そういう問題には純文学は触れない傾向にあるのだ。これは、日本の純文学の文壇の、その視野の狭さを表していると言える。 純文学の文壇が、松本清張の文学に少しは眼を向け始めたのは、『点と線』の成功以後であるが、しかしその狭い視野は、今日においてもどれほど打ち破られているだろうか。このことは、実は文学研究の世界も同様である。たとえば文学史のテキストの中で、清張文学が果たしてどれくらいの重みで扱われているだろうか。心許ないと言わざるを得ない。 (ノートルダム清心女子大学文学部 教授 綾目広治)